・・・鼠色フランネルのカラーに背広を着て、ベズィメンスキーが出て来た。そして次のような挨拶をのべた。 今日は『プラウダ』も『イズヴェスチア』も第一面に、ソヴェトの最も功労あるマルクシストの一人であり、レーニン研究所長をしている同志リャザーノフ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 或る大変涼しい晩――もう秋の中頃がすぎて、フランネル一枚では風を引きそうな、星のこぼれそうな夜であった。 八月に生れた赤坊を一番奥の部屋でねかしつけて居ると、どっかで、多勢の男の声が崩れる様に笑うのが耳のはたでやかましくやかま・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・ 紺無地の腰きりの筒っぽを着てフランネルの股引をはいて草鞋ばきで、縁側に腰をかけて居る。紺無地の筒っぽと云えば好い様だけれ共、汗と塵で白っぽくなり、襟は有るかないか分らないほどくしゃくしゃに折れ込んで、太い頸にからみついて居る。袖口は切・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ フランネルで作った犬の腰のぬけて、めだまのぬけたのは妙に可愛いもんで、首人形の髪の手がらの紅の少しあせたのと、奇麗なかおの少し黄がかったようなのはなつかしい古い錦をなでて居るような心持になる。 新らしい本のかどかどをな・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・写真でなじみのあるあの髭、薄いねずみいろのフランネルのシャツ、その上に楽に羽織られているやっぱり灰色のような単純な上衣。握手した手は温かく大きく、そしていかにもさっぱりしている。私は、これは日向の立派な樅の木だ、とそういう感じに打たれた。・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・なる程フランネルのシャツの上に湯帷子を著ている。細かい格子に日を遮られた、薄暗い窓の下に、手習机の古いのが据えてあって、そこが君の席になっている。私は炭団の活けてある小火鉢を挟んで、君と対座した。 この時すぐに目を射たのは、机の向側に夷・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫