・・・神われに五ペンスを与う。佐竹の陰謀なんて糞くらえだ!」ふいと声を落して、「君、起きろよ。雨戸をあけてやろう。もうすぐみんなここへ来るよ。きょうこの部屋で海賊の打ち合せをしようと思ってね」 私は馬場の興奮に釣られてうろうろしはじめ、蒲団を・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・一人前五十ペンスずつ集めてロイド会社の船員の寡婦や孤児にやるのだという。 英国人で五十歳ぐらいの背の高い肥ったそしてあまり品のよくないブラムフィールド君が独唱をやると、その歌はだれでも知っているのだと見えて聴衆がみんないっしょに歌い出し・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ただカーライルの旧廬のみは六ペンスを払えば何人でもまた何時でも随意に観覧が出来る。 チェイン・ローは河岸端の往来を南に折れる小路でカーライルの家はその右側の中頃に在る。番地は二十四番地だ。 毎日のように川を隔てて霧の中にチェルシーを・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・その笑い方苦笑にあらず、冷笑にあらず、微笑にあらず、カンラカラカラ笑にあらず、全くの作り笑なり、人から頼まれてする依托笑なり、この依托笑をするためにこの巡査はシックスペンスを得たか、ワン・シリングを得たか、遺憾ながらこれを考究する暇がなかっ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・穴の中を一町ばかり行くといわゆる two pence Tube さ。これは東「バンク」に始まって倫敦をズット西へ横断している新しい地下電気だ。どこで乗ってもどこで下りても二文すなわち日本の十銭だからこう云う名がついている。乗った。ゴーと云っ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・土曜日の夜七時からある一シリング六ペンスのダンスとテニスに関する告示が鉄柵の上のビラに出してある。ここはロンドン市が誇りとする、そしてあらゆる案内書に名の出ている「民衆の宮」なのだ。何か民衆のための実際的な設備がなくてはならぬ筈である。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫