・・・ 母は言いにくそうに、「あなたは、私のペーパーナイフなど、お知りでないだろうね。銀のが。なくなったんだがね。」 美濃は、いやな顔をした。「存じて居ります。僕が頂戴いたしました。」 障子を閉めもせず、そのまま廊下をふらふら・・・ 太宰治 「古典風」
・・・柳行李の中に、長女からもらった銀のペーパーナイフを蔵してある。懐剣のつもりなのである。色は浅黒いけれど、小さく引きしまった顔である。身なりも清潔に、きちんとしている。左の足が少し悪く、こころもち引きずって歩く様子も、かえって可憐である。入江・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・マッチのペーパーや広告の散らし紙や、女の子のおもちゃにするおすべ紙や、あらゆるそう云った色刷のどれかを想い出させるような片々が見出されて来た。微細な断片が想像の力で補充されて頭の中には色々な大きな色彩の模様が現われて来た。 普通の白地に・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・喫茶店で出すマッチね、あれは紙なしで――表紙に貼ってあるペーパーなしで、千箱入三円三十銭だったのが四円になったんだから、参りますよ。煙草の増税で二千万円ばかり収入があったそうだが、七割はバットだってね。バットは一個について一銭だから、率は一・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
新聞週間がはじまって、しばらくしたら「新聞のゆくところ自由あり」という標語があらわれた。これには英語で Where news paper goes, there is freedom. と書き添えられていた。新聞のゆくとこ・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
出典:青空文庫