・・・僕は横町を曲りながら、ブラック・アンド・ホワイトのウイスキイを思い出した。のみならず今のストリントベルグのタイも黒と白だったのを思い出した。それは僕にはどうしても偶然であるとは考えられなかった。若し偶然でないとすれば、――僕は頭だけ歩いてい・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ Black and White ばかりでございますが、……」 僕は曹達水の中にウイスキイを入れ、黙って一口ずつ飲みはじめた。僕の鄰には新聞記者らしい三十前後の男が二人何か小声に話していた。のみならず仏蘭西語を使っていた。僕は彼等に背中・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ その時まで、三郎は何かもじもじして、言いたいことも言わずにいるというふうであったが、「とうさん――ホワイトを一本と、テラ・ロオザを一本買ってくれない? 絵の具が足りなくなった。」 こう切り出した。「こないだ買ったばかりじゃ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・「ドイツ鈴蘭。」「イチハツ。」「クライミングローズフワバー。」「君子蘭。」「ホワイトアマリリス。」「西洋錦風。」「流星蘭。」「長太郎百合。」「ヒヤシンスグランドメーメー。」「リュウモンシス。」「鹿の子百合。」「長生蘭。」「ミスアンラアス。」・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・そして始めて見た時の強い印象はかなり強烈なものであった。ホワイトナイルの岸べに生まれたある黒んぼ少年の数奇な冒険生涯を物語る続きものの映画を中学校の某先生が黄色い声で説明したものである。それからずっと後の事ではあるが日清戦争時代にもしばしば・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ワシントンからマウント・ウェザーの気象台へ見学に出かけた田舎廻りのがたがた汽車はアメリカとは思われない旧式の煤けた小さな客車であったが、その客車が二つの仕切りに区分されていて、広い方の入口には「ホワイト」、狭い方には「カラード」という表札が・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・d,As it touched the neck, off went the head! Whir―whir―whir―whir!Queen Anne laid her white throat upon th・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・お洒落ではなかったが、髭は必ず毎朝剃り、カラアは毎朝とりかえ、ホワイト・シャツも一日おき位にとりかえ、そのホワイト・シャツのカフス・ボタンをはめるのが私の役でした。その頃は今のようにソフトをつかわず、西洋洗濯から糊がごわごわについてテラリと・・・ 宮本百合子 「父の手帳」
・・・ Blacksburgに来るとステーションに、Coloured, White と別にした札が下げてある。此からサウスキャロライナに入ったのだ。 黒人の太い、しかしどこかに胡弓を弾くような響のある淋しい声。 ○浅青い色・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・ ホワイト・チャペル通の交叉点を過ると、街の相貌がだんだん違って来た。家並が低くなった。木造二階家がよろめきながら立っている。往来はひろがり、タクシーなんか一台も通らない。犬もいない。木もない。そして人も少い。太陽だけが頭のテッペン・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫