・・・ 手風琴を鳴らして赤衛兵が腰かけている窓の下の掘割を、ボートが一艘漕いで来た。ボートの中には二列に赤衛兵がつまって四人がオールを握っている。一人がギターを抱えている。 その掘割は、牛乳なんかを入れる素焼壺をたくさん婆さんが並べて売っ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 河には職業組合の貸ボートがある。 公園の茂った樹の間には、図書館、芝居、音楽、活動写真館、その他、ラジオだの発明相談所だのがウンとある。素敵な水浴場もある。一晩ゆっくり楽しんだって、隅から隅までは見きれるものじゃない。 白い木・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の夏休み」
・・・向うの黒い森も池の水の面も、そこに浮んでいる一つのボートも、気味わるく赤い斜光に照らされて凝っとしている中に、何かが立っている。青白いような顔半分がこっちに見えるのだけれど、そのほかのところは朦朧として、胸のところにかーっと燃え立つような色・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・ゴーリキイの心を魅していたヴォルガの漁師は、頭をうしろから破られ、ボートの底に穴をあけられて、死んだ。水に洗われているイゾートの死体を見下す崖の上に「陰鬱に、緊張して、二十人ばかりの富農が立っていた。貧農たちはまだ耕地から帰って来ていなかっ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その土地の富農たちの恐ろしい悪計によって、革命的であった農民イゾートはヴォルガ河のボートの中で頭をわられて殺され、ゴーリキイたちの店は放火され、そのどさくさにゴーリキイやロマーシももうすこしのところで殺されかけた。流刑地でのいろいろの危急の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・女達の着物はみんな薄色になって川辺には小供達がボートをうかべています。いつも行く森はまっくろいほどにしげってその中に美の女神の居る様な沼の事や丈高く自分の丈より高く生えている百合の事などを詩の人の頭にうかばせました。若い旅の詩人は大きい目を・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・すなわち、英国人の公平な勝負という標語もボート・レースやポローの競技場埒外では、アフガニスタンやパレスタインまで出ると怪しいもんだという懐疑を公然抱いているのだ。彼女は坐っている。 M氏は、 ――こないだも、あの有名な醤油の某々の息・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫