・・・ 彫塑の妙――生への執着の数万の、デッド、マスク! 宏壮なビルディングは空に向って声高らかに勝利を唄う。地下室の赤ん坊の墳墓は、窓から青白い呪を吐く。 サア! 行け! 一切を蹂躙して! ブルジョアジーの巨人! 私は、面会・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ さらに他方には、東京の巣鴨にある十文字こと子女史が経営している十文字高等女学校では、十文字女史の息子が経営している金属工場の防毒マスクの口金仕上げのために、昨今は自分の女学校の四年と五年の生徒の中の希望者を、放課後二時間ずつ働かせてい・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 読者は敏感であるから、そういう文学の場内で接触する作家たちに対して、確にある親しさは抱いているであろうが、それと同時に誰それは、とその作家の名を佐分利信を呼ぶと全く同じ調子で呼んで、ちょいとマスクがいいでしょう、という風の態度をも・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・その石にされた心臓、そして脳髄をすりつぶされたような頭に鉄兜をつけて、毒瓦斯マスクをつけ、そしてみんなが運命を賭し、生命を賭した。日本の婦人は、世界の婦人がそれを信じかねるような程度まで自分の愛情さえ主張することが出来なかった。この状態に対・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・やっぱり全СССРのラジオの決議で活きかえらすことになり、珍動物として厳重な檻の中で試育され、マスクをかけた一九七九年代の社会主義教授が男女学生に官僚主義という珍しい習性について説明してやるという筋だ。 五幕九場のこの喜劇は、ソヴェトが・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・何と、これらの若い顔々は、木彫りか土偶かのような、単純に目、鼻、口と切りあけたというようなマスクをしているのだろう。顔だちとしては、一人一人が別の自分の顔立ちをもってはいるけれども、奇妙な無表情の鈍重さが、どの顔にも瀰漫している。医大の制帽・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ガスよけマスク、飛行機、爆弾、そういうものを拵えてしこたま儲けている工場がどんなひとの使いようをするかといえば、臨時雇いで、しかも給料のやすいおとなしい女ばかりを多く雇う。一日十一時間半も働かす。 満州を足場に日本のブルジョア、地主はソ・・・ 宮本百合子 「婦人読者よ通信員になれ」
・・・だから、マスクの特異さ、ある女としての持味だけでどしどし若い女が商品製造につかわれてもゆくのだろう。山口淑子が、ひとこま、ひとこまと場面場面をまとめるように熱演しながら、全部に流れつらぬく情熱を感じさせなかったことの一つの理由は、こういうと・・・ 宮本百合子 「復活」
出典:青空文庫