・・・衣服の色、モードに対してさえ趣味による選択のある人間が、どうして最も複雑な愛の対象に、独特な選択がないといえよう。わたしの色、というものがあるからには、私としての愛があるこそ当然と思える。わたしの考え、わたしの生きかた、そして、わたしとして・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・そしてあてもなく華やかな外国をまねしたモードを見たり朗らかな夫婦生活と性愛の秘訣をよんだりするとき、その未亡人たちの心にはどんな思いがあるだろう。 日本の戦犯は、決して東京裁判で近く判決をうけようとしている被告たちだけのことではない。東・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・黒い髪に対して真赤な爪はどんな色彩効果かということは考えられていず、胴長に、ロマネスクのモードの滑稽なあわれさが自覚されていない。商店の広告はアメリカ広告の植民地的真似をしている。自主的な批判力のまだつよめられていない日本の社会の心理に、半・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・ マルグリット・オオドゥウというフランスの婦人作家は、初めは仕立屋であった。モードを創ってブルワールに堂々たる店をもっているような服飾家ではない。ほんとのお針女、日給僅か三フランを得るために、ある時はブルジョアの家に出張したり、また・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・どこにもない様に顔の小さい、足の長い美人たちが、それが商売である図案家によって、奇想天外に考え出されたモードのおしゃれをして、たったり坐ったり寝そべったりしています。お互いに愛想のつきるような電車に乗ってつとめへ往復して、粉ばかり食べて下腹・・・ 宮本百合子 「若人の要求」
出典:青空文庫