・・・ 即ち、純粋なる良心と、正義感の発生によって、描かれたる、希望の多い、明日の社会や、生活は、我等にとって、力強いユートピアでなくてなんであろう。 我等は、これを信ずるがために、今日の苦しい戦を、戦いつゞけるのだ。 どんなに、小さ・・・ 小川未明 「名もなき草」
・・・桃源境、ユートピア、お百姓、ばかばかしい。みんな、ばかばかしい。これが日本の現実なのだわ。さあ、日本の指導者たち、あたしたちを救って下さい。出来ますか、出来ますか。えい、勝手になさいだ。あたし、東京の好きな男のところへ行くんだ。落ちると・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・そうなれば現在のいろいろなイズムの名によって呼ばれる盲目なるファナチシズムのあらしは収まってほんとうに科学的なユートピアの真如の月をながめる宵が来るかもしれない。 ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・そうなれば現在の色々なイズムの名によって呼ばれる盲目なるファナチシズムの嵐は収まって本当に科学的なユートピアの真如の月を眺める宵が来るかもしれない。 ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以前とは少しばか・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・それで、人間の頭脳の最高水準を次第に引き下げて、賢い人間やえらい人間をなくしてしまって、四海兄弟みんな凡庸な人間ばかりになったというユートピアを夢みる人たちには徹底的な災難防止が何よりの急務であろう。ただそれに対して一つの心配することは、最・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・そういうものがこの方面の行く先でありユートピアであるかもしれない。 そういう、現在のわれわれには夢のような不思議な詩形ができる日が到着したとして、そのときに現在の十七字定型の運命はどうなるであろうか。自分の見るところでは、たぶんその日に・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・当時彼の読みかけていたウェルズのモダンユートピアに出てくるいわゆる「サムライ」はこういうスポーツには手をつけないことになっているが、それはこの著者のユートピアにおける銀座新宿の平和の乱されるのを恐れたためかもしれないと思われた。 こ・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・けれどもそれは全く、作者に未知な絶えざる驚異に値する世界自身の発展であって、けっして畸形に捏ねあげられた煤色のユートピアではない。三 これらはけっして偽でも仮空でも窃盗でもない。多少の再度の内省と分析とはあっても、たしかにこのと・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・作者は、モスクワ生活でユートピア的に実験的に社会主義を理解したのではなかった。ロンドンに暮しパリを見、ベルリンの病的な印象などとソヴェト生活の現実とを生々しい対比で生きて、そのことから、人類が、幸福を求めて進んで来た歴史の前途に社会主義を確・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・ツルゲーネフはゲルツェン会の伝統をもってニェクラーソフ、ベリンスキー等とともに西欧派に属するユートピア的社会主義者であり、当時のロシアよりも早く資本主義が発達しているヨーロッパ諸国、特にフランス・インテリゲンツィアの理想主義的解放論に深く影・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫