・・・ もう十年にもなるだろうか、チェリーという煙草が十銭で買えた頃、テンセンという言葉が流行して、十銭寿司、十銭ランチ、十銭マーケット、十銭博奕、十銭漫才、活動小屋も割引時間は十銭で、ニュース館も十銭均一、十銭で買え、十銭で食べ十銭で見られ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・鉄工所の人は小さなランチヘ波の凌ぎに長い竹竿を用意して荒天のなかを救助に向かった。しかし現場へ行って見ても小さなランチは波に揉まれるばかりで結局かえって邪魔をしに行ったようなことになってしまった。働いたのは島の海女で、激浪のなかを潜っては屍・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・トルコの国旗を立てたランチが来て検疫が始まった。 土人の売りに来たものは絵はがき、首飾り、エジプト模様の織物、ジェルサレムの花を押したアルバム、橄欖樹で作った紙切りナイフなど。商人の一人はポートセイドまで乗り込んで甲板で店をひろげた。・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・グランパが桜の花を書き、エニシアルを研究し、十二時過に、グリルでランチをとる。 十日 グランパを御飯に招き、マルセーユの額のかかった下のソーファーで、盛に議論した。ダディーは長野宇平治氏と話し、オーケストラは鳴る。 十一日・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・学校の中に、学生や先生のために、便利で健康的な食堂が出来ていて、廉価に滋養のあるランチが得られます。食後、暫く構内の散歩をし、誘い合って帰宅する時間まで、三時間なり四時間なり又研究を続けると云う訳なのです。 両人に仕事のある日、夕飯は、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫