・・・羅馬の大本山、リスポアの港、羅面琴の音、巴旦杏の味、「御主、わがアニマの鏡」の歌――そう云う思い出はいつのまにか、この紅毛の沙門の心へ、懐郷の悲しみを運んで来た。彼はその悲しみを払うために、そっと泥烏須の御名を唱えた。が、悲しみは消えないば・・・ 芥川竜之介 「神神の微笑」
・・・「ガリスの果と知れるかノ。「オヤ、気障な言語を知ってるな、大笑いだ。しかし、知れるかノというノの字で打壊しだあナ、チョタのガリスのおん果とは誰が眼にも見えなくってどうするものか。「チョタとは何だ、田舎漢のことかネ。「ムム。・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・その名はドリスである。 ドリス自身には、技芸の発展が出来なくて気の毒だのなんのと云ったって、分からないかも知れない。結構ずくめの境界である。崇拝者に取り巻かれていて、望みなら何一つわないことはない。余り結構過ぎると云っても好い位である。・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・何のこたあない、ストーヴの中のカステラ見たいな、熱さには、ヨウリスだって持たないんだ。 で、水夫たちは、珍らしくもなく、彼を水夫室に担ぎ込んだ。 そして造作もなく、彼の、南京虫だらけの巣へ投り込んだ。 一々そんなことに構っちゃい・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ホール、 ○病院、 ○キャムパス。リス、楓、ぬれて横わるパン、インディアン ダンス○図書館 ○往来、 插話は此処へ入る。 ――○――○レークジョージ ○メゾン ファシール、 ○チョプスイ。○アムステルダム ○岩本さ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・空々しく、イギリスの政治家は潔白な生活をしているなどと云っているけれども、そして、フランスの防衛の準備がおくれたのは総てそれら私闘が原因であるかのように云っているが、では、ダラディエやレイノーは、何故そんなに互に対立したり、阻害し合ったりし・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・その物語は、女の小さい時に森の中のくるみのすきなリスからきいたのだそうです。可愛い小さいお話でした。女は詩人の頸を白い手でしっかり巻いてしずかに波うつ胸によせながら何事か頬を赤めながら旅人のかおを見つめて居ます。向うの山の手の一粒に見える所・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・ 私がまいりましたコロンビヤ大学の広い校庭などには、リスが沢山居ります。人が飼っているのではなく、野生なんですよ。それが皆な人になついて居ります。 子供などはよくピーナッツの皮をむいてはリスに投げてやります。すると枝にいるリスは・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
出典:青空文庫