江口は決して所謂快男児ではない。もっと複雑な、もっと陰影に富んだ性格の所有者だ。愛憎の動き方なぞも、一本気な所はあるが、その上にまだ殆病的な執拗さが潜んでいる。それは江口自身不快でなければ、近代的と云う語で形容しても好い。・・・ 芥川竜之介 「江口渙氏の事」
・・・スペインのこんにちの燃え立つ階級間の争闘を、柳沢健氏が、その民族の持っている一本気で純朴で誠実な徳性によって、惨虐性にまで進められてあるのだと説明していることだけにあきたりないと同じように。思想的・文学的な内容において情熱という言葉が日本に・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・父と性格は大変に異っていた。一本気な、やや暗い、劇しい気質であった。私は暫時であったがこの伯父から非常に愛された。沢山のバイブル物語をおそわった。小学一年生で、友達の告げ口をした時、つねられた。死の恐怖を知ったのはこの省吾伯父の没した時であ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 音楽も抜群であるし、絵をかかせればやはり目をひくだけの才気を示し、人の心の動きを理解する力も平凡ではないのに、桃子にはとことんの処へ行くとすらっと流れてしまうものがあった。一本気なところのなさが、桃子のいろいろの才能をも、つまりはちゃ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ 山奥の世間知らずで、物心づくとから左翼的な考えかたでだけ育てられた十六の娘の一本気で、非実際的な気持や姿がガスのひねり工合一つにさえ神経を用いなければならぬ都会の家庭生活の細々した有様の描写を背景としてまざまざ書かれている。良人仙吉と・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
出典:青空文庫