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・・・――そのまた向うには夜霧の中に、岩屋の戸らしい一枚岩が、どっしりと聳えているのだった。 桶の上にのった女は、いつまでも踊をやめなかった。彼女の髪を巻いた蔓は、ひらひらと空に翻った。彼女の頸に垂れた玉は、何度も霰のように響き合った。彼女の・・・
芥川竜之介
「神神の微笑」
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・・・ そこは深い谷に臨んだ、幅の広い一枚岩の上でしたが、よくよく高い所だと見えて、中空に垂れた北斗の星が、茶碗程の大きさに光っていました。元より人跡の絶えた山ですから、あたりはしんと静まり返って、やっと耳にはいるものは、後の絶壁に生えている・・・
芥川竜之介
「杜子春」