・・・太夫様にお祝儀を申上げ、われらとても心祝いに、この鯉魚を肴に、祝うて一献、心ばかりの粗酒を差上げとう存じまする。まず風情はなくとも、あの島影にお船を繋ぎ、涼しく水ものをさしあげて、やがてお席を母屋の方へ移しましょう。」で、辞退も会釈もさせず・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・宿へ帰って一献酌もうではありませぬか。と言い出づる善平。最も妙ですな。と辰弥は言下に答えぬ。綱雄さあ行こうではないか。と善平は振り向きぬ。綱雄は冷々として、はい、参りましょう。 心々に四人は歩み出しぬ。私は先へ行ってお土産を、と手折りた・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・民主主義の方向が、民主主義文学者に明確に把握されていたならば、そして、新鮮な決意があるならば、ファシズムに抵抗を感じている文学者たちの会合として、一献は不用のものであった。このことについて、当時、病気で出席さえ出来なかったわたしが、ここでふ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
出典:青空文庫