・・・それはまあ一般に言えば人の秘密を盗み見るという魅力なんですが、僕のはもう一つ進んで人のベッドシーンが見たい、結局はそういったことに帰着するんじゃないかと思われるような特殊な執着があるらしいんです。いや、そんなものをほんとうに見たことなんぞは・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・世間一般の者にそういう人があるとは言わないが少なくとも僕にはある。恐らくは君にもあるだろう。』 秋山は黙ってうなずいた。『僕が十九の歳の春の半ごろと記憶しているが、少し体躯の具合が悪いのでしばらく保養する気で東京の学校を退いて国へ帰・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格という語をかたちづくる中核的意味でなければならぬ。私はいかなる卓越した才能あり、功・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それらは、一般的に戦争に反対している。戦争は悲惨である。戦争は不愉快で、戦争のために、多数の人間が生命を落さなければならない。そこで、戦争に反対している。 プロレタリアートは、戦争に反対する、その反対の仕方に於て、一般的な態度はとらない・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・源氏物語は如何にまじないが一般的であったかを語っており、法力が尊いものであるかを語っている。この時代の人は大概現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門が乱を起しても護摩を焚いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃は蜘蛛の糸ほ・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ただ一般に苦しい押え付けられているような感じ、職業のないために生じて来たこの感じより外には、人に分けてやるような物を持っていないのである。この感じは四辺を一面に覆うている白い雪と同じように、果もなく単調な無事を表しているだけである。 し・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・役人は、ますますさかんに、れいのいやらしい笑いを発して、厚顔無恥の阿呆らしい一般概論をクソていねいに繰りかえすばかり。民衆のひとりは、とうとう泣き声になって、役人につめ寄る。 寝床の中でそれを聞き、とうとう私も逆上した。もし私が、あの場・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・それにもかかわらずレニンのえらさは一般の世人に分りやすい種類のものである。取扱っているものが人間の社会で、使っているものが兵隊や金である。いずれも科学的には訳の分らないものであるが、ただ世人の生活に直接なものであるだけに、事柄が誰にも分りや・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・もちろんパラソルにかくれた顔がだれだからというのではなくて、若い女一般にたいしてはずかしい。乞食のような風ていも、竹びしゃくつくりもはずかしい。「けがしたかい?」 そばにならんですわって、竹ばしをけずっている母親が、びっくりしてきく・・・ 徳永直 「白い道」
・・・しかし概して西洋種の草花の一般によろこび植えられるようになったのは、大正改元前後のころからではなかろうか。 わたくしが小学生のころには草花といえばまず桜草くらいに止って、殆どその他のものを知らなかった。荒川堤の南岸浮間ヶ原には野生の桜草・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
出典:青空文庫