・・・ 今境内は人気勢もせぬ時、その井戸の片隅、分けても暗い中に、あたかも水から引上げられた体に、しょんぼり立った影法師が、本堂の正面に二三本燃え残った蝋燭の、横曇りした、七星の数の切れたように、たよりない明に幽に映った。 びしゃびしゃ…・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・ と一処に団まるから、どの店も敷物の色ばかりで、枯野に乾した襁褓の光景、七星の天暗くして、幹枝盤上に霜深し。 まだ突立ったままで、誰も人の立たぬ店の寂しい灯先に、長煙草を、と横に取って細いぼろ切れを引掛けて、のろのろと取ったり引いた・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・社会運動の動力であったロシアを何かの形で世界に紹介したという点から見ても、ツルゲーネフは、当時オストロフスキー、トルストイ、ドストイェフスキー、ゴンチャロフ、ニェクラーソフなどと共にロシア文学史上の「七星」の一人と数えられただけの特色を持っ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
出典:青空文庫