・・・さず、ただこの海産動物につながる連想の活動を刺激することによって「憧憬のかすみの中に浮揺する風景や、痛ましく取り止めのつかない、いろいろのエロチックな幻影や、片影しか認められないさまざまの形態の珍しい万華鏡の戯れやが、不合理な必然性に従って・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・観客はカメラとなって自由自在に空中を飛行しながら生きた美しい人間で作られたそうして千変万化する万華鏡模様を高空から見おろしたり、あるいは黒びろうどに白銀で縫い箔したような生きたギリシア人形模様を壁面にながめたりする。それが実に呼吸をつく間も・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
一「鉄塔」第一号所載木村房吉氏の「ほとけ」の中に、自分が先年「思想」に書いた言語の統計的研究方法(万華鏡に関する論文のことが引き合いに出ていたので、これを機縁にして思いついた事を少し書いてみる。「わらふ」と laugh につ・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ ただ一つだけでも充分な深い思索に値するだけの内容をもった事がらが、数限りもなくただ万華鏡裏の影像のように瞬間的の印象しかとどめない。そのようにしてわれわれの網膜は疲れ麻痺してしまってその瞬時の影像すら明瞭に正確に認めることができなくな・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・スタンダールの内面は、いろんな万華鏡で何人かのルシアンにあらわされている。〔欄外に〕 ルシアン・ソレルがはげしい性格そのもので冷やかになったように、打算したように、ルシアン・ルーヴェンもナンシーの上流社会に対してそうだ。・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫