・・・ 七月十九日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕 七月十九日 日曜日 午後四時 第三信 蝉の声がしている。ピアノの音がしている。 二階に上って来て手摺から見下したら大きい青桐の木の下に数年前父が夕涼みの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五月十日朝 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より〕 五月十日、第十三信の副。 五月三日におめにかかってかえりましたら、午後四時すぎに倉知の叔父が六十九歳で死去いたしました。私はいそがしいので儀式だけですまそうとしたが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 十二月二十四日〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より〕 第三信 十二月二十四日。午後。 今日は。いかがですか。お体の工合、本の工合、その他いかがですか。きょうは、曇天ではあるが気候は暖かで、私は毛糸のむくむくした下へ着・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫