・・・トリツク怒濤、実ハ楽シキ小波、スベテ、コレ、ワガ命、シバラクモ生キ伸ビテミタイ下心ノ所為、東京ノオリンピック見テカラ死ニタイ、読者ソウカト軽クウナズキ、深キトガメダテ、シテハナラヌゾ。以上。 山上の私語。「おもしろく読みました。・・・ 太宰治 「創生記」
・・・私は、この緑の風呂敷を、電燈を覆うのに使用したわけは、けれども、その不潔の風呂敷の黴菌を、電球の熱でもって消毒しよう、そうして消毒してから、ながくわが家のものとして使用しようなどの下心からではない。そんなことは無い。私には全くそんな悪心がな・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・こんど新潟高校から招待せられ、出かけて来たのも、実は、佐渡へ、ついでに立ち寄ってみたい下心があったからでした。講演は、あまり修行にもなりません。剣道の先生も、一日限りでたくさん也。みみずくの、ひとり笑いや秋の暮。其角だったと思います。十一月・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・ひょっとすると何かもっと軽はずみな、ひともうけしようという下心からであったかも知れぬ。 幼いころの神童は、二三年してようやく邪道におちた。いつしか太郎は、村のひとたちからなまけものという名前をつけられていた。惣助もそう言われるのを仕方が・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・ 藍子は、女のそういう下心が憎めないような、単純さに微笑まれるような気がした。その万年筆というのは、藍子が自分用に丸善で買ったが、ペン先が堅すぎるので尾世川にやった、それなのであった。 出がけにちらちらだった雪が、帰途には熾に降・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫