・・・女房は、都会の女ではあるが、頗る野暮ったい不器量の、そうして何のおあいそも無い女である。私は女房を出すのは気が重かった。「いいじゃないか。女房のお酌だと、かえって酒がまずくなるよ。このウイスキイは」と言いながら机の上の茶呑茶碗にウイスキ・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・その代わりに、それは不器量な、二目とは見られぬような若い女が乗った。この男は若い女なら、たいていな醜い顔にも、眼が好いとか、鼻が好いとか、色が白いとか、襟首が美しいとか、膝の肥り具合が好いとか、何かしらの美を発見して、それを見て楽しむのであ・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・しかし自分の幼年時代の追憶の夢の舞台に登場する唯一の異性のヒロインはこのやや不器量で可哀そうな丑尾さんであったのである。 重兵衛さんの長男楠次郎さんから自分は英語の手ほどきを教わった。これについては前に書いたことがあるから略する。楠さん・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・ でもそんなに不器量じゃあない。 紋八二重の羽織に糸織を着て居た。 気は利きそうであった。 女を置いて帰って行く時、給金はどうでも好いが、 家柄も相当でございますから嫁にもあんまりな所へやりたくないって申して居ります・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・英国史上あらゆる女皇の不器量な大理石像を見るだろう。止った遊覧自動車のまわりは顔面と声だけ夜から見分けのつく大小の子供達で鈴なりである。 ――ペニーおくれよ、小父さん! ――お金! お金おくれ! 外套の前をきっちり合わせ肩をいか・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫