・・・書いて出版するや否や、忽ち内務省からは風俗壊乱、発売禁止、本屋からは損害賠償の手詰の談判、さて文壇からは引続き歓楽に哀傷に、放蕩に追憶と、身に引受けた看板の瑕に等しき悪名が、今はもっけの幸に、高等遊民不良少年をお顧客の文芸雑誌で飯を喰う売文・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・「食いたがるって、これじゃ営養不良になるばかりだ」「なにこれほど御馳走があればたくさんだ。――湯葉に、椎茸に、芋に、豆腐、いろいろあるじゃないか」「いろいろある事はあるがね。ある事は君の商売道具まであるんだが――困ったな。昨日は・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・その時分の事を今の貴方がたに比べると、われわれ時代の書生というものは乱暴で、よほど不良少年という傾き――人によるとむしろ気概があった。天下国家を以て任じて威張っておった。われわれの年配の人は、いつも今の若い者はというような事をいっては、自分・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・されども不良の子に窘しめらるるの苦痛は、地獄の呵嘖よりも苦しくして、然も生前現在の身を以てこの呵嘖に当たらざるを得ず。余輩敢えて人の信心を妨ぐるにはあらざれども、それ程にまで深謀遠慮あらば、今少しくその謀を浅くしその慮を近くして、目前の子供・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・さればといって甚不良なのではなく、ただ動物質の食品に比して幾分劣るというのであります。全然植物性蛋白や脂肪を消化しないという人はまあありますまい、あるとすればその人は又動物性の蛋白や脂肪も消化しないのです。さてどう云うわけで植物性のものが消・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・神経性営養不良なんだ。わきからどうも出来やしない。あんまり骨と皮だけに、ならないうちにきめなくちゃ、どこまで行くかわからない。おい。窓をみなしめて呉れ。そして肥育器を使うとしよう、飼料をどしどし押し込んで呉れ。麦のふすまを二升とね、阿麻仁を・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・こうやっているうちに不良にでもなられたら、死んだ親父にも申訳ないと思いますし。――けれどもなまじっか人並以上の暮しをしていた悲しさで今更他人の台所を這いずる気にもなれず……」「……そういうんでは、あなたが今云った朝鮮行きもどんなものかな・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・にもいろんな種類ができて、日本でいう不良少年のような浮浪児を教育する「子供の家」と孤児の「子供の家」とは別になっている。 私たちの訪問したのは、親のないソヴェト同盟の子供たちの暮している「子供の家」の方です。 市の中心から東に向って・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・主婦そのものが、家族のために食べものをやりくりして自分は慢性の栄養不良に陥っていることは、何も昨今の日本にはじまったことではなかった。経済の困難が一定の限度をこえるとその家の妻、母である女性がいつも先ず第一に自身を飢えさせて来た。今日一般に・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・ よく作家が寄ると、最後には、子供を不良少年にし、餓えさせてしまっても、まだ純創作をつづけなければならぬかどうかという問題へ落ちていく。ここへ来ると、皆だれでも黙ってしまって問題をそらしてしまうのが習慣であるが、この黙るところに、もっと・・・ 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫