・・・むべき道はござらねど権力腕力は拙い極度、成るが早いは金力と申す条まず積ってもごろうじろわれ金をもって自由を買えば彼また金をもって自由を買いたいは理の当然されば男傾城と申すもござるなり見渡すところ知力の世界畢竟ごまかしはそれの増長したるなれば・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 次第に、私は子供の世界に親しむようになった。よく見ればそこにも流行というものがあって、石蹴り、めんこ、剣玉、べい独楽というふうに、あるものははやりあるものはすたれ、子供の喜ぶおもちゃの類までが時につれて移り変わりつつある。私はまた、二・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・それこそ、この世界中で一ばん美しい女ではないかと思われるような、何ともいえない、きれいな女の画姿です。ウイリイはびっくりして、その顔を見つめました。 ウイリイはやっと、その羽根をポケットにしまって、また馬を走らせました。そしてどこまでも・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・長い睫毛がかげを投げた黒い眼のあの物語は、とりもなおさず、彼女を囲む世界の言葉なのでした。蝉の鳴いている樹から、静かな星に至る迄、其処には、言葉に表わさない合図や、身振り、啜泣、吐息などほか、何もありません。 深い真昼時、船頭や漁夫は食・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・もちろん博士さ。世界的なんだ。いまは、数学が急激に、どんどん変っているときなんだ。過渡期が、はじまっている。世界大戦の終りごろ、一九二〇年ごろから今日まで、約十年の間にそれは、起りつつある。」きのう学校で聞いて来たばかりの講義をそのまま口真・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・それをなんだと云うと、この男は世界を一周した。そこで珍らしい人物ばかり来るこの店でさえ、珍らしい人物として扱われるようになったのである。この男がその壮遊をしたのは、富籤に当ったのではない。また研究心に促されて起ったのでもない。この店の給仕頭・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・「遼陽陥落の日に……日本の世界的発展のもっとも光栄ある日に、万人の狂喜している日に、そうしてさびしく死んで行く青年もあるのだ。事業もせずに、戦場へ兵士となってさえ行かれずに」こう思うと、その青年、田舎に埋もれた青年の志ということについて、脈・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
一 この間日本へ立寄ったバートランド・ラッセルが、「今世界中で一番えらい人間はアインシュタインとレニンだ」というような意味の事を誰かに話したそうである。この「えらい」というのがどういう意味のえらいのであるかが聞きたいのであったが・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・幸に世界を流るる一の大潮流は、暫く鎖した日本の水門を乗り越え潜り脱けて滔々と我日本に流れ入って、維新の革命は一挙に六十藩を掃蕩し日本を挙げて統一国家とした。その時の快豁な気もちは、何ものを以てするも比すべきものがなかった。諸君、解脱は苦痛で・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・あかるい二階の障子窓から、マンドリンをひっかきながら、外国語の歌をうたっている古藤の声や、福原や、浅川のわらい声が、ずッとちがった、遠くの世界からのようにきこえていた。 三「社会問題大演説会」は、ひどく不人気だった。・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫