・・・ 朝三時 さあ行こうと中原が言う。行こうと返事をして手袋をはめているうちに中原はもう歩きだした。そうして二度目に行くよと言ったときには中原の足は自分の頭より高い所にあった。上を見るとうす暗い中に夏服の後ろ姿がよろける・・・ 芥川竜之介 「槍が岳に登った記」
・・・ 九 かならずしも道玄坂といわず、また白金といわず、つまり東京市街の一端、あるいは甲州街道となり、あるいは青梅道となり、あるいは中原道となり、あるいは世田ヶ谷街道となりて、郊外の林地田圃に突入する処の、市街ともつかず・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ たとえば、『少女の友』などに描いていた中原淳一氏の抒情画というものが、この頃は見えなくなった。芸術のこととして、また純正な絵画の美を少女たちの感性に高め導いてゆくためにああいう絵が何かの価値をもっているかと云えば、それは決して積極的な・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
出典:青空文庫