・・・ 道を挟んで、牡丹と相向う処に、亜鉛と柿の継はぎなのが、ともに腐れ、屋根が落ち、柱の倒れた、以前掛茶屋か、中食であったらしい伏屋の残骸が、蓬の裡にのめっていた。あるいは、足休めの客の愛想に、道の対う側を花畑にしていたものかも知れない。流・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 娘は、お中食のしたくいたしましょうかといったきり、あまり口数をきかない、予は食事してからちょっと鵜島へゆくから、舟をたのんでくれと命じた。 富士のすそ野を見るものはだれもおなじであろう、かならずみょうに隔世的夢幻の感にうたれる。こ・・・ 伊藤左千夫 「河口湖」
・・・御中食は、また、別にいただきます。どういたしましょうか」「三円五十銭のほうにして下さい。中食は、たべたい時に、そう言います。十日ばかり、ここで勉強したいと思って来たのですが」「ちょっと、お待ち下さい」女中は、階下へ行って、しばらくし・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ シュールダンの大広間は中食の人々でいっぱいである。それと同様、広い庭先は種々雑多の車が入り乱れている――大八車、がたくり馬車、そのほか名も知れぬ車の泥にまみれて黄色になっているのもある。 中食の卓とちょうど反対のところに、大きな炉・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫