・・・新聞のつたえるところによると青柳弁護士が、あのさわぎを誘発したのは丸の内警察署の誰某と名前をあげて弁論している。ひとを一定の罪にひっかけるために挑発し、行動したものは、それが権力の使用人であれば罪はないというものだろうか。罪の原因をうみ出し・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・砂糖が切符になる前に砂糖やの前に出来ていた列、この頃は食事時間に丸の内辺の食堂のぐるりにも出来る列。列は整頓の形でありながら、常にその奥に何か足りないもののあることを語っているのはまことに意味ふかいことではないだろうか。だから、いろんなもの・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・一日の十二時二分前、東京及び湘南地方に大地震があり、多くの家屋が倒壊すると同時に、四十八箇所から火を発し、警視庁、帝劇、三越、白木屋、東京駅、帝国大学その他重要な建物全焼、宮城さえ今猶お燃えつつある。丸の内、海上ビルディング内だけでも死者数・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・ 大学まで卒業した人が三十五円四十円の月給さえナカナカとる口のない今の世の中に、会社が丸の内にあるばっかりに、俺は労働者なんぞとは人間が違うんだと、搾られている当人が思っているとしたらほんとに笑いものです。 あなたが働くと云えば、良・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
・・・二、三年前の初夏、久しぶりに上京して東京駅から丸の内の高層建築街を抜けて濠側へ出たときであった。濠に面して新しい高層建築が建てそろっている。ここがあの荒れ果てた三菱が原であった時分から思うと、全く隔世の感がある。しかし自分を驚かせたのはこの・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫