・・・ 束髪に結った、丸ぽちゃなのが、「はいはい。」 と柔順だっけ。 小用をたして帰ると、もの陰から、目を円くして、一大事そうに、「あの、旦那様。」「何だい。」「照焼にせいという、お誂ですがなあ。」「ああ。」「・・・ 泉鏡花 「七宝の柱」
・・・色白くふっくりふくれた丸ぽちゃの顔、おとがい二重、まつげ長くて、眠っているときの他には、いつもくるくるお道化ものらしく微笑んでいる真黒い目、眼鏡とってぱしぱし瞬きながら嗅ぐようにして雑誌を読んでいる顔、熊の子のように無心に見えて、愛くるしく・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ 十時頃、冷えのしみとおったうすら寒さと眠たさとでぼっとしているところへ、紺服の陽にやけた労働係が一人の色の白い丸ぽちゃな娘をつれて来た。「しばらくここにいな」「房外かね」「そうだ」「さ、ねえちゃん、そこへ坐ってくれ。仲・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫