・・・ほども遠い、……奥沢の九品仏へ、廓の講中がおまいりをしたのが、あの辺の露店の、ぼろ市で、着たのはくたびれた浴衣だが、白地の手拭を吉原かぶりで、色の浅黒い、すっきり鼻の隆いのが、朱羅宇の長煙草で、片靨に煙草を吹かしながら田舎の媽々と、引解もの・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ Sさんが帰ると、Y、急に九品仏に行こうといい出した。この間N氏が家族づれで行ってなかなか道の心持がよかったというところだ。三井の横を抜け、竹藪を抜け、九品仏道と古風な石の道しるべについて行ったら、A氏の農園のすぐ横に出た。働いていたA・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・ 九品仏その他、駒沢からこの辺にかけて、散歩するに気持よいところが沢山ある。名所ではないが、自然が起伏に富み、畑と樹林が程よく配合され眺めに変化があるのだ。ぶらぶら歩いていると、漠然、自然と人間生活の緩漫な調和、譲り合い持ち合いという気・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
出典:青空文庫