・・・ どれほど、白髪が、私の頭を渦巻こうとも額にしわが数多く寄ろうとも、只、希うのは、健に、敏い感情のみを保ちたいと云う事である。 今私が、妹の死を悲しんで、糸蝋の淡い灯影につつましく物を思いながら幼い魂を守って居る。 けれ共幾年か・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ そして、小さいながらも充実した文化をもつ人民の日本として、晴れ晴れと、自信にみちた明るい瞳をもって世界に登場しようと希うのである。〔一九四六年五・六月〕 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ 一八九七年、マリヤは長女のイレーヌを生み、彼女の家庭生活と科学者としての生活は一層複雑に多忙になったけれども、健康なマリヤは、すべての卓抜な女性が希うとおりそれらの生活の全面を愛して生きようとしました。「妻としての愛情も、母としての役・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 自分の良人を深く深く愛し、謙遜に、恭々しく、出来るだけの努力でその愛を価値高い、純粋なものに浄化させて行き度いと希う自分は、最も計り難い、最も絶対な一大事として、愛する良人との死別ということをも考えずにはいられなく成ったのです。 ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・ 日本の歴史を辿ってみても、よその国の歴史を眺めても、いろいろの時代に文学は様々の解釈を下されて来ているが、それが人生の真のよろこびと悲しみとの姿を映したいと希う人間の精神のあらわれであるということについては、どんな解釈も文学としてのそ・・・ 宮本百合子 「古典からの新しい泉」
・・・この段階は経過したものとして、今日作家が自身の成長としての変りを希うとき、自身のうちにどんな内的な契機がつかまれて行ったらいいのだろうか。 十一月の文芸時評で、平野謙氏が、日本の自然主義以来の文学伝統の分析からこの点にふれ、作家が何によ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・つまり孤立的な静的な自我の意識でなく、全体的綜合のうちに自らを意識し、全体的環境の発展とともに自我を新しく構成し創造して行くことを希う相関的、能動的自我の意識である。が故に文学的行動主義は必然、多分の社会性をもち、また革命主義的立場をとる。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 其故、私は未だ米国婦人の獲得した権能を所有しない日本の女性は、其の権能を要求し、獲得し、運用する場合に、より純一で、より高い動機で総ての行為が支配される事を希うのでございます。 C先生、今もう少しで私は可成予定より長くなった。雑信・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ そして、彼が分別らしく又気弱く、自分たちのような不幸な少年は他の世界への憧れや冒険心などをすてる方がよいのだなどと云っている消極性をふりすてることを希う。自身の告白を、故国への誤った悪評の材料につかわれるような恥さらしをせずに、生き抜・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・又如何に其等が群をなして飛んで来ようと、端然と己を持して居られる丈の自らの力の成育を希うべきであろうか。 自分は後者であり度く思う。ありたく思うのみならず、そう努力して行こうと心に思い定めて居る。 総ての事物に、合一される事が無くな・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
出典:青空文庫