・・・しかも、一新聞記者の無味乾燥な報告ではない。作家としての独歩の面目は、到るところに発揮されて、当時の海戦と艦上生活の有様をヴィヴィットに伝え得るものがある。軍艦の水兵たちや、戦地に行った者たちが、内地からの郵便物を恐ろしく焦れ待つことは、多・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・これは通例乾燥無味な表に詰め込んだだらしのないものである。これなどは思い切って切り詰め、年代いじりなどは抜きにして綱領だけに止めたい。特に古い時代の歴史などはずいぶん抜かしてしまっても吾人の生活に大した影響はない。私は学生がアレキサンダー大・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・いわゆる案内記の無味乾燥なのに反してすぐれた文学者の自由な紀行文やあるいは鋭い科学者のまとまらない観察記は、それがいかに狭い範囲の題材に限られていても、その中に躍動している生きた体験から流露するあるものは、直接に読者の胸にしみ込む、そしてた・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ この観測に使った小船は、今は理学部の北玄関の壁に立てかけて乾燥状態にある。もとは大きな盥を浮かべて船の代わりにしたものであるが、いろいろの観測に必要だというので、水産講習所へ頼んで造ってもらったものである。池につないでおくと、たぶん職・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ 実際もし映画殊に発声映画の技術が発達を重ねて行ってその器械がもう少し安くなって一般の使用に便利なようになれば、多くの学校の無味乾燥な教授の大部分は映画で置換えられるであろう。全級一度に教授することによって教員の手が明く。先生方はそうし・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ 植物の果実のことだけを詳しく取り扱ったいわゆるカルポロジーの本を読んだときに、乾燥すると子房がはじけて種子をはじき飛ばすものの特例の一つとして Impatiens noli-tangere というものが引き合いに出ていた。インパチェン・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・打ち返されて露出している土でも乾燥の程度や遠近の差でみんなそれぞれに違った色のニュアンスがある。それらのかなりに不規則な平面的分布が、透視法という原理に統一されて、そこに美しい幾何学的の整合を示している。これらの色を一つ取りかえても、線を一・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ある辰年の冬ある地方がひどく乾燥でそのために大火が多かったとして、次の辰年にも同様な乾燥期が来るということには、単なる偶然以外に若干の気候週期的な蓋然率が期待されないこともない。 気候の変化が人間の生理にも若干の影響があるかもしれないと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・西瓜の粒が大きく成るというので彼は秋のうちに溝の底に靡いて居る石菖蒲を泥と一つに掻きあげて乾燥して置く。麦の間を一畝ずつあけておいてそこへ西瓜の種を下ろす。畑のめぐりには蜀黍をぎっしり蒔いた。麦が刈られてからは日は暑くなる。西瓜の嫩葉は赤蠅・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・のみならずこれからやる中味と形式という問題が今申した通りあまり乾燥して光沢気の乏しいみだしなのでことさら懸念をいたします。が言訳はこのくらいでたくさんでしょうからそろそろ先へ進みましょう。 私は家に子供がたくさんおります。女が五人に男が・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
出典:青空文庫