・・・ 無事に着いた、屹度十日までに間に合せて金を持って帰るから――という手紙一本あったきりで其後消息の無い細君のこと、細君のつれて行った二女のこと、また常陸の磯原へ避暑に行ってるKのこと、――Kからは今朝も、二ツ島という小松の茂ったそこの磯・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・妻の方でも、妻も長女も、ことに二女はこのごろやはり結核性の腹膜とかで入院騒ぎなどしていて、来る手紙も来る手紙もいいことはなかった。寺の裏の山の椎の樹へ来る烏の啼き声にも私は朝夕不安な胸騒ぎを感じた。夏以来やもめ暮しの老いた父の消息も気がかり・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・斜に射すランプの光で唄って居る二女の顔が冴えて見える。一段畢ると家の内はがやがやと騒がしく成る。煙草の烟がランプをめぐって薄く拡がる。瞽女は危ふげな手の運びようをして撥を絃へ挿んで三味線を側へ置いてぐったりとする。耳にばかり手頼る彼等の癖と・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ お熊は四十格向で、薄痘痕があッて、小鬢に禿があッて、右の眼が曲んで、口が尖らかッて、どう見ても新造面――意地悪別製の新造面である。 二女は今まで争ッていたので、うるさがッて室を飛び出した吉里を、お熊が追いかけて来たのである。「・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・男子に二女を娶るの権あらば、婦人にも二夫を私するの理なかるべからず。試に問う、天下の男子、その妻君が別に一夫を愛し、一婦二夫、家におることあらば、主人よくこれを甘んじてその婦人に事るか。また『左伝』にその室を易うということあり。これは暫時細・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・を書いて、日本にもしたしまれているキュリー夫人の二女エヴ・キュリーは、一九四三年に「戦士のあいだを旅して」という旅行記をニューヨークから出版した。それがさいきん「戦塵の旅」という題で、ソヴェト同盟旅行の部分だけ翻訳出版された。一九四一年十一・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 上の娘は、三輪の郵便局の細君になって居る。二女が二十一二で、浜田病院に産婆の稽古をして居る。うちにもちょくちょく遊びに来る、色白な、下膨れの一寸愛らしい娘であった。先頃、学校を出たまま何処に居るか、行方が不明になったと云って、夜中大騒・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長の妻になる人である。弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の三人がある。妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏丸中納言光賢に嫁・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・長女いちが十六歳、二女まつが十四歳になる。その次に太郎兵衛が娘をよめに出す覚悟で、平野町の女房の里方から、赤子のうちにもらい受けた、長太郎という十二歳の男子がある。その次にまた生まれた太郎兵衛の娘は、とくと言って八歳になる。最後に太郎兵衛の・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ 天正十一年になって、遠からず小田原へ二女督姫君の輿入れがあるために、浜松の館の忙がしい中で、大阪に遷った羽柴家へ祝いの使が行くことになった。近習の甚五郎がお居間の次で聞いていると、石川与七郎数正が御前に出て、大阪への使を承っている。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫