・・・したがって善悪両面ともに感激性の素因に乏しいという点から見て、そこが芸術的でないと難を打つ事はできる。その代りその書きぶりや事件の取扱方に至っては本来がただありのままの姿を淡泊に写すのであるから厭味に陥る事は少ない。厭味とか厭味でないとかい・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・物我の二字を用いるのはすでに分りやすいためにするのみで、根本義から云うと、実はこの両面を区別しようがない、区別する事ができぬものに一致などと云う言語も必要ではないのであります。だからただ明かに存在しているのは意識であります。そうしてこの意識・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・というと、片方と片方は紅白見たように別れているように見えますが、一人の人がこの両面を有っているということが一番適切である。人間には二種の何とかがあるということを能くいうものですが、それは大変間違いだ。そうすると片方は片方だけの性格しか具えて・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ セコンドメイトは、デッキの上と橋板の上とでは、レコードの両面見たいに、あべこべの事を云い始めた。詰らない事を云って、自分が疳癪玉の目標になっては、浮ばれないと思いついたのだ。「セキメイツ。長いものが、長いものの癖をして、巻かねえん・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・それも苦しいのでその夜はそれを擲ってしもうたが、翌日になって見ると一枝の花を裏と表と両面から書いてあったのがちょっと面白かったので、それに改めてゾンザイな彩色を加えまた別にげんげんの花を二輪と、チンノレイヤという花とを書き添えた。このチンノ・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 先生は中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズを指しました。「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私どもの太陽がこのほぼ中ごろにあ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・けれども、そこには不幸なポーランドが、ヨーロッパにおけるその位置からいつも両面からの侵略をこうむりつづけてきていることに対する深い憤りと、決してそれに屈しきってはしまわないその運命についての彼女の意味深い回想がこめられているのであった。・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・という小説の中などでは、予言者として怒号の表情だけ誇張して扱われているサヴォナロラの殉教の意味も、当時の進歩とその不徹底の両面を象徴するものとして、この本では明瞭な歴史的判断におかれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの生きかたさえ、この本の中・・・ 宮本百合子 「現代の心をこめて」
・・・ブルジョア文学と民主的な文学の本質に立ったプロレタリア文学とはけっして同質の文学の両面ではなくて、プロレタリア階級が資本主義社会から発生してきた歴史的に新しいそして質のまったくちがった一階級であるのと同じに、プロレタリア文学運動は、ブルジョ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・この一文は、それら両面からの問題を明らかにするために書かれたものである。 ×「一連の非プロレタリア的作品」に対して与えられた諸同志の批判を見ると、そこに一貫して云われている幾つかの共通なことがある。その一つは・・・ 宮本百合子 「前進のために」
出典:青空文庫