・・・ こういう風にインテリゲンツィアと民主主義の関係を真面目に理解すれば、この頃平野謙氏が反覆して云っているような、小林多喜二の死と特攻隊員の死とは、単に一つ歴史の両面であり、等しく犬死にであるという論の非現実なことが分って来る。オブローモ・・・ 宮本百合子 「誰のために」
・・・独立的で、同時に今度欧州の大戦に参加してから彼等自身をも驚かした程の一致力を有し、各自が利害に明かで、着々と得るべきものは精神、物質両面ながら獲得して行きます。 けれども、ここに考えなければならないことは、米国人は、箇人主義と云う一つの・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・――つまりわれわれの建設の両面がここにあるわけですね」 もう半月ばかりすると、この演劇サークル上演の芝居が見られるのだそうだ。ドイツの新式な電気照明装置が舞台についている。 元の廊下をゆくと、右や左にいくつもの室が並んでいる。真先に・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・彼の予期しなかった死=没落と日夜目撃してその中に生きるソヴェトの燃えつつ前進する新社会相は、両面から自分の眼を開いた。ひとりで闘ってきた闘いを結びつけて行くべき方向と形と意味が理解された。政治的行動に、これまでと全く違う見方を得た。芸術・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・を観、その目でこの小説を読みする一人の読者は、全く相似ない両面の心の形に対して、どう判断するであろう。芸術を愛する程の者ならば、村山氏に、芸術以前の形で分裂のままあらわれているこの矛盾をこそ、人間的なものとして讚歎しなければならない義務を負・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ これを、先にふれた婦人作家の擡頭という現象と今日の現実のうちで綜合して見わたすとき、日本の婦人が今日にもっていた文化の畸型的な性格の両面というものが、ほうふつと浮彫りになって目の前に浮んでくるようではないだろうか。たとえばここに一人の・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・カウィアは片側で済むが、切り抜かれちゃ両面無くなる。没収せられればまるで無くなる。」 山田は無邪気に笑った。 暫く一同黙って弁当を食っていたが、山田は何か気に掛かるという様子で、また言い出した。「あんな連中がこれから殖えるだろう・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・ 二人には二人の心が硝子の両面から覗き合っている顔のようにはっきりと感じられた。 三 今は、彼の妻は、ただ生死の間を転っている一疋の怪物だった。あの激しい熱情をもって彼を愛した妻は、いつの間にか尽く彼の前から・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫