・・・ どうして礼なんぞ遣っては腹を立って祟をします、ただ人助けに仕りますることで、好でお籠をして影も形もない者から聞いて来るのでございます、と悪気のない男ですが、とかく世話好の、何でも四文とのみ込んで差出たがる親仁なんで、まめだって申上げた・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・そしてそれを村の焼場で焼いたとき、寺の和尚さんがついていて、「人間の脳味噌の黒焼きはこの病気の薬だから、あなたも人助けだからこの黒焼きを持っていて、もしこの病気で悪い人に会ったら頒けてあげなさい」 そう言って自分でそれを取り出してく・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・何も、人助けの為であります。慈善は、私の本性かも知れません。「醜いものだけを正体として信じ、美しい願望も人間には在るということを忘れているのは、間違いであります。」とD先生が教えて居ります。何事も、自分を、善いほうに解釈して置くのがいいよう・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫