・・・雨や風や地震でさえ自由に制御することのできない人間の力では、この人文的自然現象をどうすることもできないのである。この狂風が自分で自分の勢力を消し尽くした後に自然になぎ和らいで、人世を住みよくする駘蕩の春風に変わる日の来るのを待つよりほかはな・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・ 次には原始人類の生活状態から人文の発達の歴史をかなり詳しく論じている。これらの所説を現在学者の所説と比較してみてもおそらく根本的にはいくらも違わないのではないかと思われる。たとえば火の発明の記事は現に私の机上にある科学者の火に関する著・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・ そこで職業上における己のため人のためと云う事は以上のように御記憶を願っておいて、話がまた後戻りをする恐れがあるかも知れないが、前申した通り人文発達の順序として職業が大変割れて細かくなると妙な結果を我々に与えるものだからその結果を一口御・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・それを一通り調べてもまだ足らぬ所があるので、やはり上代から漕ぎ出して、順次に根気よく人文発展の流を下って来ないと、この突如たる勃興の真髄が納得出来ないという意味から、次に上代以後足利氏に至るまでを第一巻として発表されたものと思われる。そうは・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・殖産工商の事を勉めて富国の資を大にし、学問教育の道を盛んにして人文の光を明らかにし、海陸軍の力を足して護国の備えを厚うするが如き、実際直接の要用なれども、内外人民の交際は甚だ繁忙多端にして、外国人が我が日本国の事情を詳らかにせんとするは、容・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・氏はヨーロッパ文学において人文主義の時代から十九世紀の自然主義時代に至る自我の発展「社会化した私」と、自然主義が文芸思潮として移入した明治時代の日本の「要らない肥料が多すぎ」「近代市民社会は狭隘であった」中で自我を未だ自我の自覚として十分社・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本人が、感情的、情緒的であるという特徴は、どこから来ているのであろう。人文地理的な説明だけでは私には納得しきれない。スペインのこんにちの燃え立つ階級間の争闘を、柳沢健氏が、その民族の持っている一本気で純朴で誠実な徳性によって、惨虐性・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 降って十八世紀の西欧に於ける人文主義も封建の封鎖に対して人間性の明智と合理とを主張した広義のヒューマニズムの動きであった。引続く世紀に例えばトルストイによって表現されているヒューマニズムは、日本の『白樺』の精神にも流れ入って来た。言っ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・日本の歴史を見て、深い驚きにうたれることは、ヨーロッパにおいて人文復興のルネッサンスが起り、近代に向う豊富な社会生活と文化とが発生しはじめた丁度その頃に、徳川の完全な鎖国政策がはじまったことである。ヨーロッパが、まだ蒙昧な、半ば野蛮時代の生・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・科学といっても人文社会に関する科学の業績は、自然科学よりずっと日常にとりいれられ、わかるものとなっている。 今日私を悲しく思わせる、このような自然科学の蒙昧性を考えると、女学校時代の化学教室の雰囲気が思い出に甦って来る。化学教室には厚板・・・ 宮本百合子 「私の科学知識」
出典:青空文庫