・・・ と、誰かが言いかけると、「え?」 とすぐに出しゃばり、「それは、どんなんです? やはり、アメリカのものなんですか? いつ、配給になるんです?」 人絹と間違っているらしいのだ。あまりひどすぎて一座みな興が覚め、誰も笑わず・・・ 太宰治 「眉山」
・・・軍刀の紫の袋には、真赤な太い人絹の紐がぐるぐる巻きつけられ、そうして、その紐の端には御ていねいに大きい総などが附けられてある。「先生には、まだ色気があるんですね。恥かしかったですか?」「すこし、恥かしかった。」「そんなに見栄坊で・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・外見ばかりを安物で飾っている現代の建築物や、人絹の美服などとその趣を同じくしているが故である。わたくしはまた紙でつくった花環に銀紙の糸を下げたり、張子の鳩をとまらせたりしているのを見るごとに、わたくしは死んでもあんな無細工なものは欲しくない・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・という小説は同志小林が初めてボルシェヴィク作家らしい著実さ、人絹的艷のぬけた真の気宇の堂々さで主題の中に腰を据え書きはじめたことを印象させ、その点で感動を与える作品であった。同志小林が作家としても一段深い発展に立っていることを感じさせた。ブ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・ 重吉が網走からもってかえって来た人絹の古い風呂敷包みの中には、日の丸のついた石鹸バコ、ライオンはみがきの紙袋、よれよれになった鉄道地図、そして、一まとめに大事にくくった書類が入っていた。その束の中に、一通の電報があった。デタラスグカエ・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫