・・・ 小野の小町 まあ、何と云う人聞きの悪い、手前勝手な理窟でしょう。 玉造の小町 ほんとうに男のわがままには呆れ返ってしまいます。(黄泉女こそ男の餌食です。いいえ、あなたが何と云っても、男の餌食に違いありません。昔も男の餌食でした。今・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・沢本 瀬古の若様がひかえている間は大丈夫だが……とも子 人聞きの悪い……よしてください。戸部うなる。瀬古 ともちゃん、頼むから毎日来ておくれ。頼むよ。僕たちは一人残らずおまえを崇拝しているんだ。おまえが帰ると、こ・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・ 女房は手拭を掻い取ったが、目ぶちのあたりほんのりと、逆上せた耳にもつれかかる、おくれ毛を撫でながら、「厭な児だよ、また裾を、裾をッて、お引摺りのようで人聞きが悪いわね。」「錦絵の姉様だあよ、見ねえな、皆引摺ってら。」「そり・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・ 昔馴染みだとか、他人のように思えないだとか、何か私と厭らしいことでもあったようで、人聞きが悪いじゃないか」「へへ、誰も人は聞いてやしませんから大丈夫でさ」「あれ、まだこの人はあんなことを言って! 金さんと私とは、娘の時からの知合い・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・たとえ今日のような世の中でも、場合によってはかえってこの頃のいろいろの人聞きのいいデーに勝る事がないとも限らない。今の人でもおそらく年中悪い事ばかりはしていまい。 危険な崖の上に立っている人を急に引止めようとするとかえって危険だという話・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 私のベッドというと人聞きがよいけれど実は、そのベッドには本式のマトレスはまだついていないのです。普通の敷布団がのっかっているの。この次の小説でマトレスは出来るだろうという次第です。 ドーデエの小さいものが面白かったそうで私はそのお・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫