・・・言論が客観的な真理に立つ可能とその必然をますと共に、人民の生活意識が、人間らしい欲求の自覚とその行動に進むにつれ、新聞はおのずから一転換を誘われて、再び、金儲け事業としてではない新聞の内容と組織とになろうとしている。様々の形で、そういう動き・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・戦争中は人間らしいたのしささえ奪われて育った人たちは自由になったということ、民法で親の権利が削減されたということ、男も女も平等だわ、という考えを最も手近いところで表現しようとしているところがある。煙草をのむこと、お酒をのむこと、そとでどんな・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・真に人間らしい伴侶として婦人を求めている男にとっても苦痛を与えた。従って、その固定観念への闘争は十八世紀ぐらいから絶えず心ある男女によって行われてきているということは注目すべきことだと思う。それらの運動は単純に家長的な立場から見られている女・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・その人が自分の社会的・階級的人生を発見したからこそ、そこにおこるすべてのことの人間らしい美醜、悲喜の歴史的意味を知り、自分をもある時代の階級的人間の一典型として、客観的に描き出してゆく歓喜を理解するのである。 わたしたちの人生と文学の偶・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・そのようにわたしたちは、起伏する社会現象をはげしく身にうけながら、そこからさまざまの感想と批判と疑問とをとり出しつつ、人間らしい人生を求める航路そのものを放棄してはいない。昔の女性が世間智でとりあつめた常識は、すでにやぶれた。身のまわりに渦・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・どれも今から十四五年前、日本で民主的な文化運動さえも権力によって暴圧されていた時代、人間らしい正当な活動はひそかに組織され、多くの犠牲をもって実行されていた頃の出来ごとがかかれている。これらの作品のなかで、その頃、あいまいな奴隷の言葉でしか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・わたしたちを不幸にしている今日の現実の社会の矛盾と闘って人間らしい生活を組立ててゆこうとしている、その建設のうちにわたしたちの感じる幸福と幸福への途があります。 女性の古い抑圧がとりさられて自分の判断で結婚の相手をえらび、また恋愛をする・・・ 宮本百合子 「生きるための恋愛」
・・・手におえないようなあばずれ者にも真に人間らしい本音を吐かせる。 しかし我をなくすることによって個性の色はいささかも薄くならない。かえって強烈に深刻に現われて行く。 ――こういう事を考えるようになってから自分はどういう風に変化したか。・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・現在民衆の人間らしい本能を押えつけている力の組織は、やがてまたそれを倒す民衆の力の内にも現われて来るだろう。 もし近い内に真実の講和が来るとすれば、それは右の機運が内部に熟している証拠である。 そうでなくただ妥協的に、戦前の状態に復・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・彼は土下座したために老人に対して抱くべき人間らしい心を教わることができたのです。 彼は翌日また父親とともに、自分の村だけは家ごとに礼に回りました。彼は銅色の足に礼をしたと同じ心持ちで、黒くすすけた農家の土間や農事の手伝いで日にやけた善良・・・ 和辻哲郎 「土下座」
出典:青空文庫