・・・同僚も今後の交際は御免を蒙るのにきまっている。常子も――おお、「弱きものよ汝の名は女なり」! 常子も恐らくはこの例に洩れず、馬の脚などになった男を御亭主に持ってはいないであろう。――半三郎はこう考えるたびに、どうしても彼の脚だけは隠さなけれ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・……されば夫人は旧日の情夫と共に、日夜……日本人にして且珈琲店の給仕女たりし房子夫人が、……支那人たる貴下のために、万斛の同情無き能わず候。……今後もし夫人を離婚せられずんば、……貴下は万人の嗤笑する所となるも……微衷不悪御推察……敬白。貴・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・ つまり今後の諸君のこの土地における生活は、諸君が組織する自由な組合というような形になると思いますが、その運用には相当の習練が必要です。それには、従来永年この農場の差配を担任していた監督の吉川氏が、諸君の境遇も知悉し、周囲の事情にも明ら・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ 今後第四階級者にも資本王国の余慶が均霑されて、労働者がクロポトキン、マルクスその他の深奥な生活原理を理解してくるかもしれない。そしてそこから一つの革命が成就されるかもしれない。しかしそんなものが起こったら、私はその革命の本質を疑わずに・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・それはまあどうでも可いが、とにかくおれは今後無責任を君の特権として認めて置く。特待生だよ。A 許してくれ。おれは何よりもその特待生が嫌いなんだ。何日だっけ北海道へ行く時青森から船に乗ったら、船の事務長が知ってる奴だったものだから、三等の・・・ 石川啄木 「一利己主義者と友人との対話」
・・・すなわち、もし我々が今論者の言を承認すれば、今後永久にいっさいの人間の思想に対して、「自然主義」という冠詞をつけて呼ばねばならなくなるのである。 この論者の誤謬は、自然主義発生当時に立帰って考えればいっそう明瞭である。自然主義と称えらる・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・新聞紙は諸方面の水害と今後の警戒すべきを特報したけれど、天気になったという事が、非常にわれらを気強く思わせる。よし河の水が増して来たところで、どうにか凌ぎのつかぬ事は無かろうなどと考えつつ、懊悩の頭も大いに軽くなった。 平和に渇した頭は・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・が、少年の筆らしくない該博の識見に驚嘆した読売の編輯局は必ずや世に聞ゆる知名の学者の覆面か、あるいは隠れたる篤学であろうと想像し、敬意を表しかたがた今後の寄書をも仰ぐべく特に社員を鴎外の仮寓に伺候せしめた。ところが社員は恐る恐る刺を通じて早・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 二十五ヵ年の歳月が文学をして職業として存立するを得せしめ、国家をして文学の存在を認めしむるに到ったのは無論進歩したには違いないが、世界の英雄東郷を生じた日本としては猶お余りにもどかしき感がある。今後の二十五ヵ年間、願くは更に一大飛躍あ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 以上を要約するに、現実に立脚した、奔放不覊なる、美的空想を盛り、若しくは、不可思議な郷土的な物語は、これを新興童話の名目の下に、今後必ずや発達しなければならぬ機運に置かれています。いまの児童の読物のあまりに杜撰なる、不真面目なる、・・・ 小川未明 「新童話論」
出典:青空文庫