・・・ こういう場合に、末子の代弁をつとめるのは、いつでもこの下女だった。それにしても、どうかして私はせっかく新調したものを役に立てさせたいと思って、「洋服を着るんなら、とうさんがまた築地小劇場をおごる。」 と言ってみせた。すると、お・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ 発声映画 無声映画がようやく発達して、演技や見世物の代弁の地位を脱却し、固有の領域を設定しかけたときに、突然発声映画の器械が市場に現われた。それがためにようやく「雄弁」になりかけた無声映画は突然「おし」にされてしま・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ しかしまた考えてみると、西洋人のまねをして西洋の理論の代弁をするような情けないできそこないの日本人は、日本国民の中ではむしろ比較的少数な特殊階級の人間である。国民の大多数はやはり純良種の日本人であって米の飯とたくあんを食い、われら固有・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 盛りあがった力あるプロレタリアートが階級的立場に立ってものをいうとき、遠慮して、兎だの亀だのに代弁させる必要はないのである。 これは、日本の闘争的プロレタリアートの心持にしろ同じである。 その代り、諷刺は昔のロシア文学の中に重・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・住んでいるのは今の家でもいいが、裸になって労働者の代弁者になった気でおやりにならねば駄目だといい、幣原首相を驚かせた」というのである。総辞職を求めて来た四党代表に向って、首相が自由にものをいったら、そして、その場での誠意を表明しようとしたら・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・では通念の代弁者である小役人庄兵衛に対して、全く個人の主観に立って安心立命をも得ており、弟殺しとして罪に問われたことも自分には十分わかっている真の動機からその心を腐らせるものとはなっていない不幸な喜助の個人の必然としての主観の世界を正面から・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・だの、父親の代弁として、ユーモアのないところに思想はなく、だから文学はないという風なくちのききかたも、何となく中間小説作家流の本来の人生の姿を語っているようでもある。 英文学者の中野好夫が、英国の文学は、人生のふち飾りなりの論に一言も交・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 伊藤氏が健全な人間的作家としての野望を抱く現代青年の心的事実の代弁者であるならば、小樽の街上を袂を翼に舞ったり下ったりする戯画化された小林の粗末な描写で、歴史的重要さが求めているだけの批判をなしているとみずから承認されはしないであろう・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ ケットで代弁させて居る未練。 ×本野子爵夫人のくれた陶器 父、母と本野子爵に呼ばれた。 父、あの調子ではしゃぎ mantelpiece の上のオランダをほめる。 子爵夫人、夫をすすめ、建築の少ない礼の足・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・非道な権力がそれを語らせなかったとともに、人民戦線の提示の場合ナチス的な封建性と近代民主主義の対立の歴史的な必然を消してしまった日本の一部のインテリゲンツィアは、非道な権力の代弁のように、人間の社会生活の現実にある階級性を抹殺した人間復興論・・・ 宮本百合子 「誰のために」
出典:青空文庫