・・・間に生れたいと願うた、七日七夜、椽の下でお通夜して、今日満願というその夜に、小い阿弥陀様が犬の枕上に立たれて、一念発起の功徳に汝が願い叶え得さすべし、信心怠りなく勤めよ、如是畜生発菩提心、善哉善哉、と仰せられると見て夢はさめた、犬はこのお告・・・ 正岡子規 「犬」
・・・ わざとこえをかえてしかつめらしくきくと若い女はたまらなそうに笑いこけながら、「マア殿さまハ、何を仰せあそばすかと思えば、私なんかはもうもうお山のおくのおく、山猿といっしょに産湯をつかったのでございますもの」 割合にはっきりした・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・ お徳をあがめるものは日増にふえて御領地は日ましにひろがる法王様の御声がかりなら死ぬるのは欠伸するより御安い御用と思うものが沢山になると陛下が、お前を法王に任ずる と仰せらるるのがお気に入らんでの。第一の女 お気に入・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・もしものことがござりましたら、どうぞ長十郎奴にお供を仰せつけられますように」 こう言いながら長十郎は忠利の足をそっと持ち上げて、自分の額に押し当てて戴いた。目には涙が一ぱい浮かんでいた。「それはいかんぞよ」こう言って忠利は今まで長十・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・当時三十一歳の某、この詞を聞きて立腹致し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条なり、さりながら某はただ主命と申物が大切なるにて、主君あの城を落せと仰せられ候わば、鉄壁なりとも乗り取り申すべく、あの首を取れと仰せられ候わば、・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・当時未だ三十歳に相成らざる某、この詞を聞きて立腹致し候えども、なお忍んで申候は、それはいかにも賢人らしき申条なり、さりながら某はただ主命と申物が大切なるにて、主君あの城を落せと仰せられ候わば、鉄壁なりとも乗取り申すべく、あの首を取れと仰せら・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・次いで元文四年三月二日に、「京都において大嘗会御執行相成り候てより日限も相立たざる儀につき、太郎兵衛事、死罪御赦免仰せいだされ、大阪北、南組、天満の三口御構の上追放」ということになった。桂屋の家族は、再び西奉行所に呼び出されて、父に別れを告・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・わたくしは仰せの通りよく拝見しました。その写真の男は Dorian Gray と云う青年はあんなだったかと思うほど美しくて、Edward 七世はあんなだったかと思うほど様子がよかたのです。髪は波を打っています。眉は秀でています。優しい目に男・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・が味方の手綱には大殿(義貞が仰せられたまま金鏈が縫い込まれてあッたので手綱を敵に切り離される掛念はなかッた。その時の二の大将の打扮は目覚ましい物でおじゃッたぞ」「一の大将もおじゃッたろう」「おじゃッた。この方もおなじような打扮ではお・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫