・・・露月とは趣を異にしているけれどやはり微細なる趣向における趣味を充分に会得しないように思われる。格堂の句は旨い事は実に旨いものであるが、その句法が一本筋であるだけにいくらか変化に乏しい処がある。 このほか鳴雪、四方太、紅緑、等諸氏・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。 尾崎士郎氏は名調子の感傷とともにではあるが、それとは異った他の人間的情況のスナップをつたえようとしている。榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・その原因は、個性と文学の発展の可能の源泉として、日本の民主主義文学の伝統が、積年の苦難を通してたえず闡明してきた文学における客観的な社会性の意義を、会得していなかったからである。文学において謙虚にまた強固に自己を大衆のなかなるものとして拡大・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・そういうことが会得された。それ以来、必要な時には、私は聴衆がそこに来ている心持の或る面と自分の心持の或る面との接触を信じて講演をするようになった。 窪川稲子と一緒にそういう場所に出ることが一度ならずあった。彼女も講演は苦手の方で、壇に上・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・団体さえ組めば何でも優先権をとれる、という昔とはちがった世渡り上手のこつを会得させることでもないと思う。団体行動の流行は、一人一人の人間としての向上に細かい目を向けないで、ただそこへくっついていさえすればいいのだからという逃避の無責任さを、・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ このことは、今日、地方に紙があり、印刷能力があるという偶然以上の意義をもっていることとして、十分に会得されなければならないと思う。 今はじめて、私たちは公然として人民たる自分を生かしはじめた。私たちの文化も、漸々これから私たちのも・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・些細な日常の感情軋轢を整理することをおのずから学ぶであろうし、その点では、仕事そのものの上達につれて二重の賢さ、生活術を会得してゆくわけになります。この事は実際上、良人や子供の理解なしにはなりたたないから、好都合な事情で運べば、よい妻、いい・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・強く、全面的にこの大切な点が会得されなければ甲斐がない。芸術的効果をそこまで持って行くために、ソヴェト同盟のプロレタリア芸術家たちは大童だ。 ところで、問題は展開する。 この帝国主義の侵略の危機、及びファッシズムとの闘争は、果してソ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・自分の会得せぬものに対する、盲目の尊敬とでも言おうか。そこで坊主と聞いて逢おうと言ったのである。 まもなくはいって来たのは、一人の背の高い僧であった。垢つき弊れた法衣を着て、長く伸びた髪を、眉の上で切っている。目にかぶさってうるさくなる・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・そうして我々はまざまざとその味わいを会得することができたのである。 こういうふうな仕方で我々はいろいろの味を教わった。自分はその時の印象によってのほか岡倉先生を知らない。ひそかに思うに、あれが岡倉先生の最も本質的な面であったのであろう。・・・ 和辻哲郎 「岡倉先生の思い出」
出典:青空文庫