・・・ともかくも気温や風の特異な垂直分布による音響の異常伝播と関係のある怪異であろうと想像される。今では遠い停車場の機関車の出し入れの音が時として非常に間近く聞こえるといったような現象と姿を変えて注意されるようになった。たぬきもだいぶ・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ それで火災を軽減するには、一方では人間の過失を軽減する統制方法を講究し実施すると同時に、また一方では火災伝播に関する基礎的な科学的研究を遂行し、その結果を実地に応用して消火の方法を研究することが必要である。 もちろん従来でも一部の・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・後にはエーテルと称する仮想物質の弾性波と考えられ、マクスウェルに到ってはこれをエーテル中の電磁的歪みの波状伝播と考えられるに到った。その後アインスタイン一派は光の波状伝播を疑った。また現今の相対原理ではエーテルの存在を無意味にしてしまったよ・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・ところが光線伝播は直線的であるので二つの目が同時に対象に向かっていなければならない。従って、二つが前面に並んでいないと不都合である。これに反して音の場合には音波が頭で回折されるから、一つの耳の反対の側から来る音でもその耳に到達する。しかし正・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・ また文化はある国からある国へ、伝播されて発達するものであるという説をとなえる人がある。そういう人たちはイタリーにファッシストができたから、それが拡がってドイツのナチスになり、ドイツのナチスはイギリスに拡がるばかりか東洋の国々にもやがて・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・てやったが、失業と夫婦生活の破壊との生々しい関係、失業と売笑との直接な関係、大多数者の慰安ない生活と低劣なままに繋ぎとめられている文化水準とアルコール中毒との具体的関係、ましてや戦争の後帰還兵によって伝播される花柳病の恐るべき問題などについ・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・最悪よりはより尠き悪を、大衆による広汎な悪徳の伝播よりは、まだしもブルジョアの今のままでの悪行を! そして、自分が無一文になるよりは腹立たしいが今あるものを手離さず! そういうのがバルザックの考えかたの道筋なのであった。 私達はここで一・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・に書かれているブルジョア婦人雑誌に対する態度は、プロレタリア文化の尖鋭な伝播者・組織者としてのわれわれの刊行物と、ブルジョア文化攻勢の具体化としての婦人雑誌との相互的関係を、十分弁証法的に、レーニン主義的に把握しているとはいえぬ。「発刊の言・・・ 宮本百合子 「婦人雑誌の問題」
・・・ 竜池は我名の此の如くに伝播せらるるを忌まなかった。啻にそれのみではない。竜池は自ら津国名所と題する小冊子を著して印刷せしめ、これを知友に頒った。これは自分の遊の取巻供を名所に見立てたもので、北渓の画が挿んであった。 文政五年に竜池・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・そのうち噂は清武一郷に伝播して、誰一人怪訝せぬものはなかった。これは喜びや嫉みの交じらぬただの怪訝であった。 婚礼は長倉夫婦の媒妁で、まだ桃の花の散らぬうちに済んだ。そしてこれまでただ美しいとばかり言われて、人形同様に思われていたお佐代・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫