・・・するとこれもある位地境遇にある夫婦の関係を明かにすると云う点で同様の満足を作者と読者に与えるかも知れない。好んでこう言う事をかく文芸家を真を理想にする文芸家と云います。吾人の有する第二の精神作用は情であります。この情を理想として働かせる・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その上松の位地が好い。門の左の端を眼障にならないように、斜に切って行って、上になるほど幅を広く屋根まで突出しているのが何となく古風である。鎌倉時代とも思われる。 ところが見ているものは、みんな自分と同じく、明治の人間である。その中でも車・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・余の位地は非常に下って来たのである。其処らの叢にも路にもいくつともなく牛が群れて居るので余は少し当惑したが、幸に牛の方で逃げてくれるので通行には邪魔にならなかった。それからまた同じような山路を二、三町も行た頃であったと思う、突然左り側の崖の・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・に輝く一つの大きい星とそれをかこんで輝く四つの小さな星の美しさをよろこぶばかりではなく、日本のごたごたした社会情勢のうちに、やがて次第に輝きをましてゆくべき一つの星と四つの小さな星との文学をその正当な位地づけで認めることこそ、文学における政・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ けれども、私が斯う申すと、きっと或人は反駁して、「私はお前の云う通り、女性を高い位地にまで上げて認めようと為る、又認めたいと思う。従って教育も男子と同等にさせてやり度いとも思う。然し考えて見なさい、日本の女性の裡に幾人、大学教育を受け・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・証拠には、あの一団の日本人の実際生活が、ベルリン大衆の革命的高揚とどういう関係にあり、かつまた遠い故国日本の階級的進展とどういう血の通った関係にあるかという基礎的な階級的位地が、弁証法的具体的に描き出されていない。 一群の日本人は、切り・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・しかし、花園は既にその山上の優れた位地を占めた勝利のために、何事にも黙っていなければならなかった。彼の妻は日々一層激しく咳き続けた。 七 こういう或る日、彼はこっそり副院長に別室へ呼びつけられた。「お気の毒で・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫