・・・銀座の不二屋でお茶を飲んでいたときにも、肘で私をそっとつついて、佐々木茂索がいるぞ、そら、おまえのうしろのテエブルだ、と小声で言って教えてくれたことがありますけれど、ずっとあとになって、私が直接、菊池先生や佐々木さんにお目にかかり、兄が私に・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・だいたい日本のどの辺に多くいるのか、それはあのシーボルトさんの他にも、和蘭人のハンデルホーメン、独逸人のライン、地理学者のボンなんて人も、ちょいちょい調べていましたそうで、また日本でも古くは佐々木忠次郎とかいう人、石川博士など実地に深山を歩・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・海岸の佐々木さんの納屋で、事実、音高く釘を打ちはじめたのです。トカトントン、トントントカトン、とさかんに打ちます。私は、身ぶるいして立ち上りました。「わかりました。誰にも言いません。」花江さんのすぐうしろに、かなり多量の犬の糞があるのを・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・日の武運長久の祈願には汝等と共に必ず参加申上候わずや、何を以てか我を注意人物となす、名誉毀損なり、そもそも老婆心の忠告とは古来、その心裡の卑猥陋醜なる者の最後に試みる牽制の武器にして、かの宇治川先陣、佐々木の囁きに徴してもその間の事情明々白・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・がたくして、沐雨櫛風、ただ、ただ上へ、上へとすすまなければならぬ、肉体すでに半死の旗手の耳へ、妻を思い出せよ、きみ、私め、かわってもよろしゅうございますが、その馬の腹帯は破れていますよと、かの宇治川、佐々木のでんをねらっていることに、気づく・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・ そもそも茶道は、遠く鎌倉幕府のはじめに当り五山の僧支那より伝来せしめたりとは定説に近く、また足利氏の初世、京都に於いて佐々木道誉等、大小の侯伯を集めて茶の会を開きし事は伝記にも見えたる所なれども、これらは奇物名品をつらね、珍味佳肴を供・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ (Ernst Pollak Verlag.)G.Herkt : Das Tonfilm-Theater.Close Up : Vol. VI, VII.エイゼンシュテイン、映画の弁証法(佐々木能理男。ベーロ・ボラージュ、映・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 友人たちとこの映画のうわさをしていたとき、居合わせたK君は、坊間所伝の宮本武蔵対佐々木巌流の試合を引き合いに出した。武蔵は約束の時間を何時間も遅刻してさんざんに相手をじらしたというのである。武蔵もまたどこかユダヤ人のような頭の持ち主で・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・――と、その時分私の眼に映ったのは、今も駿河台に病院を持って居る佐々木博士の養父だとかいう、佐々木東洋という人だ。あの人は誰もよく知って居る変人だが、世間はあの人を必要として居る。而もあの人は己を曲ぐることなくして立派にやって行く。それから・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・しかし立派な技術を持ってさえいれば、変人でも頑固でも人が頼むだろうと思いました。佐々木東洋という医者があります。この医者が大へんな変人で、患者をまるで玩具か人形のように扱う、愛嬌のない人です。それではやらないかといえば不思議なほどはやって、・・・ 夏目漱石 「無題」
出典:青空文庫