・・・本来の日本のユーモラスであり腹立たしい人生が見せられたからである。佐藤春夫の「人間天皇の微笑」に対して林房雄は罵らないだろう。これらにはいかなる人生もないから。いわゆるふちの飾りしかないのだから。 文学らしい言葉で云われている林房雄・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・谷崎潤一郎、永井荷風、佐藤春夫等の作家は彼等の古典文学の教養を土台として例えば「盲目物語」「春琴抄」「つゆのあとさき」等の作品を示し、文芸復興はさながらブルジョア老大家の復興であるかの如き外観を呈した。当時にあっては、佐藤春夫は芸術の技法の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・「たとえば佐藤春夫氏の『星』や『女誡扇綺談』等の作品に流れる世間への憤懣の調べ、川端康成氏の描く最もほのかに美しい世界、あるいは僕らの同じ心の友だちの……。こういう立派な芸術の美しさをまず僕はあらゆる日にとらねばならない。」とする保田与重郎・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
小さき歩み ああ、しばらく、と挨拶をするような心持で、私は佐藤俊子氏の「小さき歩み」という小説を手にとった。この作者が田村という姓で小説を書いていた頃の写真の面影は、ふっさりと大きいひさし髪の下に、当・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・の作者佐藤春夫の「心驕れる女」という連載物に登場する人物にさえ時代の空気が流れ入っていることは、一つの例に過ぎず、当時は通俗小説の中にさえも新しさの象徴として時代的な青年男女の動き、心持ち、理論などと云うものがさまざまに歪曲されながら装飾と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・正宗白鳥は、菊池が自身の側においたような風でいっている警保局云々の考えかたを、そのようにケシかけたりするのは意外のようであるとし、山本有三、佐藤春夫、三上於菟吉、吉川英治その他が組織した文芸院の仕事の価値をも言外にふくめて「文学者がさもしい・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・其那こといやだというのを、バチェラーは、道庁や佐藤博士の御厄介になって居るからことわれず、八重電報で呼ばれ、かえって入るともうその人が来て居る。 目的や何か伺わないうちはいや 通弁だけはするが人が出て来るかどうか判らない。 然し・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・そこへ佐藤という、色の白い、髪を長くしている、越後生れの書生が来て花房に云った。「老先生が一寸お出下さるようにと仰ゃいますが」「そうか」 と云って、花房は直ぐに書生と一しょに広間に出た。 春慶塗の、楕円形をしている卓の向うに・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ 佐藤春夫氏は極力作者に代って弁解されたが、あの氏の弁明は要するに弁明であって、自然はそんなことを赦すはずがないと思う。次ぎの『顔世』はあのような失敗の作である。もし佐藤氏の弁明が弁明でないなら、自作の顔世があのようなおどけた失敗はする・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ 佐藤春夫の頭 私は或る夜佐藤春夫の頭を夢に見た。頭だけが暗い空中に浮いているのである。顔をどうかして見ようと思うのに少しも見えない。その癖顔は何物にも邪魔されてはいないのだ。頭だけが大きく浮き上り、頂上がひどく突角っ・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
出典:青空文庫