・・・しかしその体格は解剖には叶っておらんだろうと思います。あれを評して真を欠いてるから駄目だと云うのは、云う方が駄目です。ミレーの晩祈の図は一種の幽遠な情をあらわしている。そこに目がつけば、それでたくさんである。この画には意志の発動がないと云う・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ セイラーが、乗船する時には、厳密な体格検査がある。が、船が出帆する時には、何にもない。 船のために、又はメーツの使い方のために、労働者たちが、病気になっても、その責任は船にはない。それは全部、「そんな体を持ち合せた労働者が、だらし・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ たとい、あるいは散官ならざるも、生来文事をもってあたかもその人の体格を組織したる人物は、これを政事に用いてその用をなすに足らず。学者はこれに事を諮問するに適して、これに事を任するに不便利なり。かかる人物を政府の区域中に入れて、その不慣・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 一人の顔の赤い体格のいい紺の詰えりを着たほうの役人が云いました。「うん、そうだ。間違いないよ。」も一人の黒い服の役人が答えました。さあ、もう私たちはきっと殺されるにちがいないと思いました。まさかこんな林には気も付かずに通り過ぎるだ・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・ 竹内茂代女史は、日本女子の体格分類統計をもって医学博士になられた。彼女の博士論文から引出された論によると、女学生の体格は統計上背が高くすらりとしたタイプであり、女工たちの体はずんぐりで低く、四肢が短い。この統計によって見ても明かなよう・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・先ず陸軍大臣が保健省設立を提案するという興味ある形で今日とりあげられている青年男女の体格低下の問題や、婦人労働者の退職手当金の問題、又頻々たる心中事件の意味など、恋愛論が、恋愛論の枠の中を廻っていただけでは解決し得ぬ先行的事情が、附随してと・・・ 宮本百合子 「もう少しの親切を」
・・・それは鋤に寄りかかる癖があるからで、それでまた左の肩を別段にそびやかして歩み、体格が総じて歪んで見える。膝のあたりを格別に拡げるのは、刈り入れの時、体躯のすわる身がまえの癖である。白い縫い模様のある襟飾りを着けて、糊で固めた緑色のフワフワし・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・若し床の間の置物のような物を美人としたら、るんは調法に出来た器具のような物であろう。体格が好く、押出しが立派で、それで目から鼻へ抜けるように賢く、いつでもぼんやりして手を明けていると云うことがない。顔も觀骨が稍出張っているのが疵であるが、眉・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・多分体格の立派なのと、項を反せて、傲然としているのとのためであっただろう。「エルリングです」と答えて、軽く会釈して、男は出て行った。 エルリングというのは古い、立派な、北国の王の名である。それを靴を磨く男が名告っている。ドイツにもフ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そう考えると、麦積山の塑像の示しているところは、渭水流域の彫塑の技術とか、住民の体格面相とかであるよりも、むしろはるか西方、タリム川流域に栄えていた諸都市における彫塑の技術、住民の体格面相などであるであろう。 四十何年か前に、スタインの・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫