・・・ 母としての女性の使命はこのほかにまた、「時代を産む母」としてのそれがあることを忘れてはならぬ。女性の天賦の霊性と直観力とで、歴史と社会との文化史的向上の方向を洞察して、時代をその方向に導くように、男子を促し、鞭韃し、また自ら立ってその・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 早生の節成胡瓜は、六七枚の葉が出る頃から結顆しはじめるが、ある程度実をならせると、まるでその使命をはたしてしまったかのように、さっさと凋落して行ってしまう。私は、若くて完成して、そして速かに世を去って行った何人かの作家たちと、この桃や・・・ 黒島伝治 「短命長命」
・・・私は、やっぱり歴史的使命ということを考える。自分ひとりの幸福だけでは、生きて行けない。私は、歴史的に、悪役を買おうと思った。ユダの悪が強ければ強いほど、キリストのやさしさの光が増す。私は自身を滅亡する人種だと思っていた。私の世界観がそう教え・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・シロオテは、いかにもしてその思うところを言いあらわし自分の使命を了解させたいとむなしい苦悶をしているようであった。よい加減のところで訊問を切りあげてから、奉行たちは障子のかげの阿蘭陀人に、どうだ、と尋ねた。阿蘭陀人は、とんとわからぬ、と答え・・・ 太宰治 「地球図」
・・・これだけでも映画というものの独特な使命が明白に指示されているように思う。 五 すみれ娘 日本の近代映画でも、PCLの提供するものの中には色々な点で有望な進歩の動向を示しているものがあるように思う。この「すみれ娘」な・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・映画の使命は単に大衆のスター崇拝の礼拝堂を建てるのみではないであろう。 はなはだ無意味でつまらないようである意味で非常に進歩しているのはアメリカのナンセンス映画やミュージカル・コメディの類である。ある人の説のごとく、芸術は在るところのも・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・芸術家の使命は多様であろうが、その中には広い意味における天然の事象に対する見方とその表現の方法において、なんらかの新しいものを求めようとするのは疑いもない事である。また科学者がこのような新しい事実に逢着した場合に、その事実の実用的価値には全・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・の一つの使命である。科学も文学も等しくこの未来の「学」の最後のゴールに向かってたどたどしい歩みを続けているもののようにも思われるのである。「文学も他の芸術も、社会人間の経済状態の改善に直接何かの貢献をするものでなければならない」というよ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・科学国の文化への貢献という立場から見れば、むしろ、このほうが帝展で金牌をもらうよりも、もっともっとはるかに重大な使命であるかもしれないのである。 寺田寅彦 「火事教育」
・・・だからこれをもって彼らの使命の全般をつくしたとは申されない。前にも云う通りついでだから分化作用に即して彼らの使命の一端を挙げたのに過ぎんのである。したがって文学全体に渉っての御話をするときには今少し概括的に出て来なければならぬ訳です。これか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫