・・・飛行機から爆弾を投下する光景や繋留気球が燃え落ちる場面があるというので自分の目下の研究の参考までにと見に行ったのが「ウィング」であった。それから後、象の大群が見られるというので「チャング」を見、アフリカの大自然があるというので「ザンバ」を見・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・警官もやむをえず、そのまま繋留しておくと、翌朝になって、唖は大変腹が減って来た。始めは唖だから黙って辛抱したが、とうとう堪えられなくなって、飯を食わしてくれろと大きな声を出すと云う筋をかいたら、どんなものでしょう。面白い小説になる、ならんの・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・目の前に、古びた貨物船が繋留されている。それが我等を日本へつれてゆく天草丸だった。 そこからは、入りくんだ海の面と、そのむこうに細かく建物のつまった出鼻の山の景色が見える。今太陽は海、出鼻の上を暖かく照らし、岸壁でトロを押している支那人・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫