・・・驚いて見ていると、この暴君はまもなくこの哀れな俘虜を釈放して、そうしてあたかも何事も起こらなかったように悠々とその固有の雌鳥の一メートル以内の領域に泳ぎついて行った。善良なるその妻もまたあたかもこの世の中に何事も起こらなかったかのように平静・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・ 汽車の中で揺られている俘虜の群の紹介から、その汽車が停車場へ着くまでの音楽と画像との二重奏がなかなくうまく出来ている。序幕としてこんなに渾然としたものは割合に少ないようである。 不幸な夫ルパートが「第三者」アリスンの部屋から二階の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・それを待構えた残忍な悪太郎は、蚊帳の切れで作った小さな玉網でたちまちこれを俘虜にする。そうして朝の光の溢るる露の草原を蹴散らして凱歌をあげながら家路に帰るのである。 中学時代に、京都に博覧会が開かれ、学校から夏休みの見学旅行をした。高知・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・大岡昇平氏の「俘虜記」そのほかの作品に見られる。ソヴェト同盟に捕虜生活をした人々のなかから、「闘う捕虜」「ソ同盟をかく見る」「われらソ連に生きて」そのほかのルポルタージュがあらわれた。それらは日本軍隊の伝統的な野蛮さとたたかって捕虜生活の民・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ このことは、「俘虜記」から「武蔵野夫人」への大岡昇平についても考えられることではないだろうか。スタンダリアンであるこの作家の「私の処方箋」は、きょうのロマネスクをとなえる日本の作家が、ラディゲだのラファイエット夫人だの、その他の、下じ・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・朝鮮征伐の時の俘虜の男女千三百四十余人も、江戸からの沙汰で、いっしょに舟に乗せて還された。 浜松の城ができて、当時三河守と名のった家康はそれにはいって、嫡子信康を自分のこれまでいた岡崎の城に住まわせた。そこで信康は岡崎二郎三郎と名の・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫