・・・性質の純な所が、外面的の修養などが剥がれて現われたものである。 母の父は南部すなわち盛岡藩の江戸留守居役で、母は九州の血を持った人であった。その間に生まれた母であるから、国籍は北にあっても、南方の血が多かった。維新の際南部藩が朝敵にまわ・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・従令文学などの嗜みなしとするも、茶の湯の如きは深くも浅くも楽むことが出来るのである、最も生活と近接して居って最も家族的であって、然も清閑高雅、所有方面の精神的修養に資せられるべきは言うを待たない、西洋などから頻りと新らしき家庭遊技などを・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・その外に、修養のための書籍を二、三十冊わざわざ自分で買って来てYの退先きへ届けてくれたそうだ。普通の常識では豪いか馬鹿かちょっと判断が出来ないが、左に右く島田は普通の人間の出来ない事をするよ――」「それにはYも心から感謝して、その話を僕・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。否、その正反対が事実であります。牢固たる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・そのひびの薄れるように、そのまわりに結締組織のできるように修養すべきだ。傷をいやすレーテの川、忘却というものも自然のたまものだ。絶対的にのみ考えなくてもいい。童貞の青年といえども、すでに自慰を知らぬものはなく、肉体的想像力を持たぬものもあり・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・作品を、精神修養の教科書として取り扱われたのでは、たまったものじゃない。猥雑なことを語っていても、その話手がまじめな顔をしていると、まじめな顔をしているから、それは、まじめな話である。笑いながら厳粛のことを語っていても、それは、笑いながら語・・・ 太宰治 「一歩前進二歩退却」
・・・さきごろは又、『めくら草紙』圧倒的にて、私、『もの思う葦』を毎月拝読いたし、厳格の修養の資とさせていただいて居ります。すこしずつ危げなく着々と出世して行くお若い人たちのうしろすがたお見送りたてまつること、この世に生きとし生きて在る者の、もっ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ユライ芸術トハ、コンナモノサ、譬噺デモナシ、修養ノ糧デモナシ、キザナ、メメシイ、売名ノ徒ノ仕事ニチガイナイノダ、ト言ワレテ、カエス言葉ナシ、素直ニ首肯、ソット爪サキ立チ、夕焼ノ雲ヲ見ツメル。 アナタノ小説、友人ヨリ雑誌借リテ読ミマシタガ・・・ 太宰治 「走ラヌ名馬」
・・・そうして、私も、いまは営々と、小市民生活を修養し、けちな世渡りをはじめている。いやだ。私ひとりでもよい。もういちど、あの野望と献身の、ロマンスの地獄に飛び込んで、くたばりたい! できないことか。いけないことか。この大動揺は、昨夜の盗賊来襲を・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・容貌に就いては、ひそかに修養した事もあったであろうと思われる。私も、こうなれば、浜口氏になるように修養するより他は無いと思っている。 顔が大きくなると、よっぽど気をつけなければ、人に傲慢と誤解される。大きいつらをしやがって、いったい、な・・・ 太宰治 「容貌」
出典:青空文庫