・・・が、猿は熟柿を与えず、青柿ばかり与えたのみか、蟹に傷害を加えるように、さんざんその柿を投げつけたと云う。しかし蟹は猿との間に、一通の証書も取り換わしていない。よしまたそれは不問に附しても、握り飯と柿と交換したと云い、熟柿とは特に断っていない・・・ 芥川竜之介 「猿蟹合戦」
・・・今日の社会においては、もし疾病なく、傷害なく、真に自然の死をとげうる人があるとすれば、それは、希代の偶然・僥倖といわねばならぬ。 実際、いかに絶大の権力を有し、百万の富を擁して、その衣食住はほとんど完全の域に達している人びとでも、またか・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・過失傷害致死とかいう罪名でした。子供にも、どういうわけだか、その技師の罪名と運命を忘れる事が出来ませんでした。旭座という名前が「火」の字に関係があるから焼けたのだという噂も聞きました。二十年も前の事です。 七ツか、八ツの頃、五所川原の賑・・・ 太宰治 「五所川原」
・・・家あるいは国民と称するものの有機的結合が進化し、その内部機構の分化が著しく進展して来たために、その有機系のある一部の損害が系全体に対してはなはだしく有害な影響を及ぼす可能性が多くなり、時には一小部分の傷害が全系統に致命的となりうる恐れがある・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・だが、今は私は、一銭の傷害手当もなく、おまけに懲戒下船の手続をとられたのだ。 もう、セコンドメイトは、海事局に行っているに違いない。 浚渫船は蒸汽を上げた。セーフチーバルヴが、慌てて呻り出した。 運転手がハンドルを握った。静寂が・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・これらのひとびとは国民健康保険、養老年金、傷害保険、その他一年、二ヵ月の休暇や、いろいろな条件をもっています。お母さんが病気をしたり姙娠した場合は、働いている人の妻であり、勤労者の妻である、組合員の妻であるということで、組合から地区の病院、・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ 集団農場、工場は診療所をもっている。傷害保険、養老保険は、手前の賃銀からサッ引かれることはない。国家が負担する。一年一ヵ月ずつ給料つきの休暇を貰って、「休みの家」へ休みに行く。昔の美しい離宮、ブルジョアの大別荘が、今は楽しい勤労大衆の・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・の入口の廊下から、みんなが列をつくっている場所の壁まで、うまく注意をひきつけるように傷害予防のポスターが貼りまわされている。「注意! 注意! 命をすてるな」坑内へすてたタバコの吸殼からガス爆発をする絵が描いてある。「注意! 同志たち・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・空襲によって、職場の傷害によって命を落した学徒や勤労婦人の数は決して少くない。不熟練でしかも熱心に長時間機械の前に立った時、職場の災害は非常に増大するのが当然である。しかし青少年工、女子労働者のために特別な危険防止の施設というものは考えられ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫